「どう対応すれば」利用者が発熱…コロナ禍、福祉施設の苦悩

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

 高齢者や障害者の生活の場である入所施設が、新型コロナウイルスの対応に頭を悩ませている。利用者は重症化リスクが高いものの、施設によっては医師が常駐しておらず、発熱時などの対処は現場に委ねられることもある。共同生活でクラスター(感染者集団)が発生しかねない中、危機にどう向き合っているのか。福岡県内の二つの施設を訪ねた。

 同県赤村の特別養護老人ホーム「青楽園」では、感染が拡大していた時期、要介護4の利用者2人が38度近い熱を出した。

 80代男性は持病があり、以前から患部の炎症で発熱していた。そのたび通院していたが、今回は感染拡大防止で一時受診を拒まれた。この病院と相談し、残っていた薬で様子を見た。

 もう1人は呼吸器疾患のある90代男性。かかりつけ医に連絡すると、解熱剤の服用を指示され、回復しなければ保健所に報告するよう言われた。

 90代男性は4人部屋だったため、同じ部屋の利用者を別室に移す隔離措置を取った。職員は予防衣を着用し、入室前後は手を消毒。退室後はマスクを取り換えた。食べ物や水分が肺に流れる誤嚥(ごえん)を起こすと肺炎になる恐れがあり、ほぼつきっきりになった。

 隔離は5日間。職員も1人が発熱し、6日間の出勤停止にしたという。

 一方、熱を出した利用者と職員は、誰もPCR検査を受けられなかった。肺炎などを引き起こすウイルス感染症は一般的に、症状が強く出ると、他人にうつるリスクが高まる。仮に感染していれば、施設内にまん延している恐れがあった。

 「検査をして陰性だったら安心できたけど、感染していないという確定的なものがない中、ケアをするのは不安だった」と八尋慎也・業務課長は振り返る。

 施設には常勤医がおらず、この間、職員は常に緊張を強いられた。お年寄りに発熱やせきはないか、肺炎の症状はないか。さらに、利用者や職員が発熱したことを病院に相談しても、「保健所に連絡を」と言われ、受診そのものが難しかった。施設側で経過観察をせざるを得なかったという。

 八尋課長は「高齢者の体調が悪いのに受診できず、『様子を見て』と言われるとリスクが高くなる。ただ、病院も院内感染を防がなければならず、慎重になっているのが分かる。介護施設側で踏ん張るにしても、どう対応すればいいか判断材料がほしい」と話した。

     ◇◇

 同県みやこ町の障害者支援施設「さいがわ学園」では、知的・精神障害のある約50人が暮らす。4月下旬、重い障害のある50代男性が38・4度の熱を出した。

 病院で重度の肺炎と分かり、入院してPCR検査を受けた。翌日出た検査結果は陰性。発熱は続いていたが、1日で退院となり、学園で服薬治療をすることに。保健所には毎日、体温を報告するよう言われた。

 PCR検査で陰性でも、その後に再び陽性となる例が報告されていた。「せめて平熱に戻るまで、1週間くらいは入院させてほしい」。学園側はクラスター発生を懸念して頼んだが、難色を示されたという。

 ここから、手探りの対応が始まった。退院翌日の体温は38・3度。男性がいた2人部屋は個室にして隔離した。看護師が体温、脈拍を点検し、職員は食事やトイレの世話を担当。1日3~4回は検温し、食器は使い捨てのものにした。

 担当した男性職員(38)は、せき込む男性に体を密着させ、食事やトイレの手助け、清拭(せいしき)をした。手袋を着け、入退室のたびに手を消毒し、マスクを交換。「この仕事は相手に密接しないと、いいサービスができない。やっぱり不安だった」。幼い子どもがおり、帰宅すると玄関先で服を脱ぎ、すぐ風呂に入った。

 他の利用者の対応にも苦労があったという。マスクを外してしまう。手洗いが十分にできない。部屋に鍵がないため施設内を歩き回る-。

 近くの病院の医師に嘱託医になってもらっていたが、感染を防ぐため学園への訪問は無理で、電話で指示を受けるしかなかった。「私たちは医療の専門家ではない。悩みました」と川寄茂美施設長は語る。

 男性はその後、37度台の熱が出たが、快方に向かった。川寄施設長は「利用者は体の弱い人が多く、感染リスクが高いと思う。感染しているかもしれない人にどう対応すればいいのか。正直、頼れるところが少なかった」と打ち明けた。 (編集委員・河野賢治)

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