「慰安婦」が映す正義 小出浩樹

西日本新聞 小出 浩樹

 韓国で叫ばれる「正義」を正面から理解するのは、容易ではない。

 それまで正しいと思われてきたことが、ある日を境に「悪」に転じることがあるからだ。在任中は尊敬された大統領も投獄や自殺という結末を迎える。

 韓国でコロナ禍が一山越えた今月、いわゆる日本軍慰安婦問題を巡る「内紛」が始まり、国内を揺るがしている。

 元慰安婦とされる李容洙(イヨンス)さん(91)が、活動を共にしてきた支援団体の前代表、尹美香(ユンミヒャン)氏(55)を告発した。

 容疑は、団体運営や寄付金を巡る横領などで、検察は団体事務所を家宅捜索した。

 「正義」が急転換した典型例であろう。真相解明はこれからだが、国民の戸惑いがより大きいのは「聖なる被害者」の支援という大義を汚しかねない疑惑だからだ。

 高齢の李さんは、韓国民では知らない者がいないほどの慰安婦問題のシンボルだ。

 一方の支援団体は「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)という。日本では「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会」(挺対協、1990年発足)の後継組織と言った方が理解されやすい。日本公館前に慰安婦をモチーフにしたという「少女像」を設置し、国際条約に違反するとして日本政府が求める撤去に、今も応じない団体だ。

 これまで、一枚岩だった李さんと正義連の主張はいずれも絶対で、時々の韓国政府にさえ異論を許さなかった。

 村山富市氏に始まる歴代首相の謝罪と財団基金による償いを否定した上、さらに苦心の末にたどり着いた日韓合意(2015年)さえ一顧だにしない。そうした経緯や10億円拠出などの合意内容は韓国内ではかき消され、多くの国民にとって正義連の主張が「正しい歴史」である。

 韓国で真実が見分けにくい背景には、北朝鮮の存在がある。日常的に政治工作が仕掛けられ、正と邪が行き交う。

 正義連も北朝鮮との密接な距離が指摘される。その存在意義は慰安婦問題の解決ではなく継続させることだ、との批判が韓国内で噴き出している。さらに驚くことに、正義連側は李さんの過去の発言を引き合いに、本人に慰安婦経験はないとほのめかしている、と韓国紙が報じた。

 日韓合意で元慰安婦47人のうち35人に、日本円にして約880万円ずつ支給された。今回そうした事実を初めて多くの国民が知り、受け取り拒否を主張した正義連への見方が揺らいでいるともいう。

 今は「正義」の行く末を見守るほかはない。

 (特別論説委員)

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