公務員定年延長 廃案は唐突かつ理不尽だ

西日本新聞 オピニオン面

 あまりにも唐突で理不尽な方針転換ではないか。政権のいわば看板政策なのに、国民へのまともな説明もないまま葬り去ろうとするのは納得できない。

 国家公務員の定年を60歳から段階的に65歳へ引き上げる国家公務員法改正案のことだ。安倍晋三首相が国会で「役所先行の定年延長が理解を得られるかとの議論があるのは事実だ」と答弁し、見直す方針を表明した。政府と与党は今国会での廃案に向けた調整を始めたという。

 政府は3月に閣議決定し、関連する10法案を「束ね法案」として国会へ提出していた。このうち、問題となったのは検察庁法改正案だ。63歳で幹部ポストを退く役職定年制を導入する一方、内閣の一存で役職に就いたまま定年延長を可能にする特例を設けていた。野党が追及し、世論も反発したのは、この特例規定である。野党は検察官を含む国家公務員の定年延長そのものには反対していない。

 「国民の理解なくして前へ進めることはできない」と首相が今国会での成立断念を表明したのは今月18日だ。この段階では一連の束ね法案は次の国会での成立を目指して継続審議とする方針だった。ところが、その3日後、賭けマージャン問題で黒川弘務前東京高検検事長が辞職に追い込まれると、首相は「法案を作った時とは状況が違っているとの意見が党にもあることを含め、しっかり検討していく必要がある」と軌道修正した。

 これは、自民党の世耕弘成参院幹事長の「新型コロナの影響で雇用環境が厳しい時期に国家公務員の定年を5年も延長する議論が成り立つのか」との発言を踏まえたものだ。国家公務員の定年延長には世論にも賛否両論がある。世耕氏の発言は確かに問題提起の意味はあろう。

 しかし、つい最近まで続いた首相の言動との整合性はどうなるのか。政権が掲げる「人生100年時代」に向けた「1億総活躍」や「全世代型社会保障」に関連させ、「国家公務員の定年を延長して豊富な知識と経験を生かす必要がある」と旗を振ってきたのは首相自身である。

 こうした首相の突然の方針転換に対し、野党は「辞職した黒川氏の問題を公務員たたきにすり替えるような話だ」と強く批判している。当然だろう。

 与党が事前審査で了承し、政府が閣議決定した法案を自ら廃案にするのは異例だ。与党内にも異論があるというが、政府と国民の信頼関係にも関わる。

 本当に「国民の理解」を求めるのであれば、検察庁法改正案の不透明な特例規定を削除し、国家公務員法改正案とは切り離して、定年延長の在り方を国会で堂々と論議すべきである。

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