AI搭載カメラをオリンパスが開発 高速追尾、命宿る1枚支える

西日本新聞 オピニオン面 塩田 芳久

 いろはの「い」から人工知能(AI)のことを知る「AIのある未来へ」。これまで家電やスマートスピーカーなど身近なAI搭載機器を取り上げたが、今回はカメラに注目する。AIの活用で特定の被写体を検出し、ピントを合わせ続ける技術が登場したのだ。オリンパスの新型カメラ「OM-D E-M1X(E-M1X)」に搭載された。新機能を担当した同社映像開発本部の城田英二・映像商品企画部長と画像システム開発本部の豊田哲也・画像システム開発2部長に、何が画期的なのか聞いた。

 「AI+カメラ」といえば、撮った写真を見栄え良く補正してくれるスマートフォンのカメラ機能が思い浮かぶ。E-M1XではAIによって、どんなことができるようになったのか?

 豊田「鉄道と飛行機、それにF1などモータースポーツの被写体を見つけ出し、特定の場所にピントを合わせ追尾して撮影することができます。鉄道は運転席、飛行機はコックピット、モータースポーツならドライバーのヘルメットをピンポイントでオートフォーカス(AF)するのです。インテリジェント被写体認識AFと呼んでいます」

 高速で移動するものを連続撮影するのは相応の腕を要求される。

 豊田「そのために当社をはじめ多くのカメラには、ピントを動く被写体に合わせ続けるコンティニュアスAFという機能があります。撮影の間、指定した被写体を追い続ける機能を持つものもあります。しかしピント合わせのスピードや追尾の精度などで満足できないという指摘が、プロの写真家から出ていました。そもそもフォーカスは、被写体のどこかに合えばいいというものではありません。フォーミュラカーでいえば、車体ではなくドライバーの顔に焦点が合ってこそ写真に命が宿る、との話もあります。そこは撮影者の腕の見せどころなのですが、技術の力でサポートできないかと考えたのが開発の背景にあります」

 そこで登場したのがAIのディープラーニング(☆1)という技術。

 城田「大量の画像データをコンピューターが学習し、狙った被写体がどこにあるかをカメラが判断できるようにしました。レンズから撮像素子(センサー)に入ったデータを、画像処理エンジン(処理用半導体)で解析します。E-M1Xでは車体などの画像を各数万枚以上、読み込ませています。形や色、背景、アングル、撮影時刻や天候などあらゆるバリエーションの写真を集めました。読み込むのはコンピューターですが、学習させる写真はどれが適切か、人が選別しています」

 豊田「対象の被写体は鉄道など三つですが、今後種類を増やし発展させる予定です。鉄道や飛行機などは移動速度が速いとはいえ、進行方向が予測できます。しかし昆虫のように動きが読めず、画面の中を不規則に速く飛び回るものは現時点では難しいようです。いつの日か、自由に飛び回る昆虫を追尾できるようにできるのが理想です」

 インテリジェント被写体認識AFで、「写真を撮ること」がどう変わるのか。

 城田「これまで撮れなかったシーンが、撮れるようになることだと思います。デジタルカメラの登場で、フィルム時代には考えられなかった撮影ができるようになりました。手ぶれ補正の搭載でスローシャッター(☆2)の写真を三脚なしで撮れたり、カメラを向けるだけで撮影シーンが風景なのか人物なのか自動で判断したり。技術の進歩とともに、『撮れるもの』の幅は広がりました。インテリジェント被写体認識AFも、これまで捉えられなかった被写体の動きを捉えられるようになるという点で、撮影の可能性を広げます」

 AIの活用によって、写真を撮る楽しみがスポイルされることはないか。

 豊田「カメラは自分で設定してうまく撮れれば楽しいものです。ほうっておいて写真が撮れるのであれば、ただの記録装置。最後にシャッターを切るのは撮影者で、AIはお膳立てする程度がいいのかなと考えます」

 今後、AIによってカメラはどんな未来を見せるのか。

 豊田「今回はAIのディープラーニングの技術を活用しましたが、その技術に縛られるつもりはありません。撮影する方々をうまくサポートして、仕事が楽になり、写真の質が上がるよう努めていきます」

 城田「今回の技術は、あくまでも正確でスピーディーなAFを行うカメラの基本性能を向上させることに重きがあります。従来の技術の置き換えではなく、従来の技術でできなかったことをカバーするのが狙いです。写真をカメラで撮ることの楽しみを増やしていきたいと思います」

   ◇     ◇

 写真も撮れるスマホの普及で、「撮影はスマホで」が常識となってきた今日このごろ。写真だけ撮れるカメラは分が悪い時代となりつつある。しかし「決定的な1枚」を撮るための機材として存在が色あせることはないだろう。今回のようなAI搭載カメラの登場で、カメラでしか撮れないものの幅が広がり訴求力は強まるはずだ。しかしインタビューで豊田さんが指摘したように、どこまでAIに任せるのか、さじ加減は難しいところ。カメラに限らず、人とAIとの関係を考えるとき必ず浮上するテーマでもある。E-M1XのAI機能を使うとき、そのテーマを考えながらシャッターを切るのだろう。 (塩田芳久)

 ●注釈
 ☆1 コンピューターによる機械学習の一つで深層学習ともいう。人間の脳神経回路のように多層的に情報処理を行い、コンピューター自身がデータに含まれる特徴を捉え、より正確で効率的な判断をする。
 ☆2 シャッター速度が遅い(長い)ことをいう。一般的に30分の1秒より遅い速度を指す。手ぶれが起きやすい状態だが、カメラ各社は手ぶれ補正機能を搭載し対応している。

=2019/02/24付 西日本新聞朝刊=

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