量子コンピューターどう使う? 福岡の企業、世界初の商用化

西日本新聞 オピニオン面 塩田 芳久

 本紙の11月12日付朝刊の連載「スタートアップ新時代/“福岡発”技術で世界へ」を読んで驚いた。福岡市のIT企業「グルーヴノーツ」が、世界に先駆けて量子コンピューターを活用したサービスを既に商用化したというのだ。量子コンピューターといえば、各国が研究・開発にしのぎを削る「未来のマシン」。今あるコンピューターより超高速で演算処理できる。ただ、実用化はずっと先だと思っていたが-。同社社長の最首英裕(さいしゅえいひろ)さんに新サービスについて話を聞いた。

 今回、同社が量子コンピューターを用いたのは三菱地所との実証実験。人工知能(AI)と量子コンピューターを使った同社のクラウドサービス「マゼランブロックス」で、ごみ収集作業の最適ルートを算出する。東京・丸の内エリアで三菱地所が管理するオフィスビルなど約30棟が対象で、過去3年分のごみ収集データなどを分析し、各ビルでのごみの発生量の予測から、ごみ収集車が回る適切なルートの組み合わせを導き出す。組み合わせ最適化問題と呼ばれるものだ。

 ただ素人考えでは、30棟のビルであれば従来型コンピューターでも十分最適ルートを算出できると思うのだが-。

 「いつ、どのビルでごみが発生するのか、曜日や時間帯などによって違う。収集車の台数も担当する人員も所要時間も考慮すると、組み合わせは膨大です。従来型コンピューターでも対応はできますが、計算に相当な時間がかかります」。最首さんが言う。「対象のビルが増加した場合など、従来型コンピューターでは新たにプログラムを書かなければなりません。一方、量子コンピューターは数式を正しく作っていれば、プログラムを修正する必要がなく、対象がどれだけ増えようと対応できるのです」

 従来型コンピューターは計算に時間がかかる、という指摘があったが、頭脳部の中央演算装置(CPU)などの進化で処理スピードは上がっていると思えるが。

 「従来型コンピューターは、プログラムの命令をCPUで読み込んで順次処理しています。いくらCPUの能力が上がっても、命令が多くなれば処理の時間はかかってしまうのです」。スーパーで最新型のレジを導入しても、列が長ければ順番が回ってこないようなものか。

 従来型コンピューターには限界がある。そこで同社が着目したのが量子コンピューターだった。

   ◇     ◇

 量子コンピューターとは何か。記者の言葉ではうまく説明できないので、入門書から引用してみたい。

 量子コンピューターとは、「量子力学の現象を応用したコンピューター」で「古典的(従来型)コンピューターとはまったく概念が異なる」(※1)。量子とは「原子や原子を構成する電子、中性子などをひとまとめにしたもの」で、「目にみえる世界とは別の物理法則が働いている」(※2)。別の物理法則とは、コンピューターの処理装置が量子レベルまで小型化されたとき現れる量子の世界を指し、そこでは「一つの量子の状態が同時に存在する『量子の重ね合わせ』」(※2)という不思議な振る舞いが見られる。結果、「私たちの目に見える世界では『0であり1でもある』という状況は成立しないが、量子の世界では成立する」(※2)。

 従来型コンピューターで扱うデータの最小単位はビットである。ビットは2進法で用いる数字0か1を表す。量子コンピューターでビットに当たるのが量子ビットで、量子の重ね合わせをモデル化して計算に活用する。「0と1の状態が両立することが最大の特徴」「10個の量子ビットを重ね合わせた場合、理論的には2の10乗=1024の組み合わせを同時に計算することが可能になる」(※1)。量子ビット40個の重ね合わせだと1兆超だ。

 量子コンピューターは従来型コンピューターとまったく違う仕組みで動き、その能力は桁違いであることはイメージできるのではないか。

   ◇     ◇

 量子コンピューターには、大きく分けて二つの方式がある。万能型の量子ゲート方式と、組み合わせ最適化問題に特化した量子アニーリング方式である。同社が活用しているのは量子アニーリング方式。カナダ企業「D-Wave」や国内メーカーが開発したマシンをクラウド経由で使っている。三菱地所との実証実験にはうってつけだろう。

 一方で量子ゲート方式は組み合わせ最適化だけでなく、あらゆる計算に対応できる。多くの人が「夢のコンピューター」と思い描いているのは、このタイプだ。しかし開発は途上で、商用化には時間がかかるとされている。

 とはいえ、量子アニーリング方式コンピューターの商用サービス化は同社以外に実績がない。全世界から注目される取り組みといえよう。「グルーヴノーツが見ているのは、世の中の変化。そこには必ず課題が発生する。MaaS(次世代移動サービス)やスマートシティの実現もそう。その課題を解決するテクノロジーを提供していきたい」と語る最首さん。その中核に量子コンピューターが位置付けられてゆくのだろう。
 (塩田芳久)

 ●注釈
 ※1 長橋賢吾「よくわかる最新量子コンピュータの基本と仕組み」(秀和システム)
 ※2 湊雄一郎「いちばんやさしい量子コンピューターの教本」(インプレス)

=2019/11/24付 西日本新聞朝刊=

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