戦後の食糧難の時代。4歳の男の子はたき火で芋が焼けるのを待っていた…

西日本新聞 オピニオン面

 戦後の食糧難の時代。4歳の男の子はたき火で芋が焼けるのを待っていた。トラックが急にバックしてきた。はずみで倒れ、右手は火の中へ。母は息子を抱き、泣き叫びながら病院に駆け込んだ。指がくっついてしまうほどの大やけど。指は内側に曲がったまま戻らなかった

▼小学生になった男の子は野球を始めた。プロの選手になって女手一つで育ててくれた母に楽をさせたかった。利き手を不自由な右から左に変えた。そのハンディを努力でねじ伏せ、夢をかなえた

▼パ・リーグの新人王を取って故郷に帰った時のこと。「右手が普通じゃったら、もっと打てたんじゃが」とつい、こぼした。耳にした母が泣きだした。「私がちゃんと見ていれば」

▼しまった、とほぞをかんだ。以後、右手の話はせず、人に見せることもなかった。張本勲さんの逸話。40年前のきょう、日本プロ野球初の3千安打を達成した

▼その名選手も甲子園の土を踏めなかった。チームは出場したが、部内の暴力問題に関わったとされ、休部処分を受けた。絶望で自殺も考えたという。立ち直れたのは、やっぱり野球が好きだったから

▼春、夏と甲子園大会が中止された。選手の無念さがよく分かるであろう張本さんは「球児たちに思い出ができるようなゲームを考えて」と訴える。選手たちも困難に負けず、自分のため、支えてくれる人のため、先輩の大きな背中を追いかけてほしい。

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