「島原大変肥後迷惑」 歴史災害の教訓生かし地域で新たな防災教育を

西日本新聞 くらし面

新局面 災害の時代―後悔しない備え⑮

 「てんでんこ」という東北の言い伝えを、前回ご紹介しました。では、「島原大変肥後迷惑」はご存じでしょうか。

 1792年に起きた雲仙・普賢岳(長崎県島原市)の噴火活動の中、5月21日、東側にある眉山の山体が崩壊しました。有明海で火山性津波が起き、長崎と熊本で犠牲者約1万5千人という日本の火山災害史上最大の被害となりました。

 2017年、私が防災教育に行った長崎県南島原市口之津小学校では、普賢岳の地震・火山防災だけでなく、眉山の山体崩壊による津波の防災教育が小学1年生にもされていました。

 ところが昨年、対岸の熊本県で有数の進学校、八代高校で講演すると「島原大変肥後迷惑」を知っている生徒は皆無に近く、驚きました。熊本県は現在、阿蘇山の火山防災と日奈久断層帯などの地震防災に関しては詳しく教えていますが、県内の犠牲者が約5千人にも上った火山性津波については、義務教育を含め教えていないようです。

 5月は津波の記念日がいくつかあります。1960年5月24日、東北を中心に沖縄まで国内各地を襲ったチリ地震津波で142人が犠牲になりました。地震が太平洋の反対側で起きたため、日本では揺れを感じず避難できなかったのです。避難の動機となる揺れがないまま押し寄せる遠地津波の怖さは、火山性津波と共通しています。

 83年5月26日に秋田県で起きた日本海中部地震では、犠牲者104人のうち100人が津波被災者でした。遠足中の小学生13人も亡くなるという痛ましい災害でした。当時は同じ東北でも「日本海側では津波は起きない」と考える研究者がいて、津波リスクへの油断を助長させたとも指摘されています。

 先日、取材に来た秋田出身の若い災害担当記者は地元で起きたこの津波を「知らないし、習っていない」と話し、びっくりしました。被災地でさえ教えられていないのなら、同じ日本海側の福岡の津波リスクも推して知るべしでしょう。受験勉強中心の教育システムで地域に合った命を守る防災教育が抜け落ちてきたこと。われわれ災害研究者がその問題を指摘せずサボっていたこと。両方に問題があると私は考えます。

 津波のような何世代をもまたぐ低頻度巨大災害の記憶の風化を防ぐには、現代の防災教育システムの中で積極的に伝える取り組みが必要です。ことわざなどの形で祖先が残してくれた歴史災害の教訓は、何もしなければ廃れていきます。

 今年は普賢岳の平成噴火から30年の節目です。新型コロナの影響で災害の追悼式典はことごとく中止の予定で、2017年九州北部豪雨の朝倉市も中止を決めています。歴史災害でなくても記憶の風化が加速しそうです。しかし、忘れた頃に災害はやって来て、人的被害が拡大するのです。(九大准教授 杉本めぐみ)

 ◆備えのポイント 毎年改定される「理科年表」に科学的根拠がある歴史災害が網羅されています。昨年から国土地理院が災害記念碑を地図上に表示しています。内閣府のホームページで「歴史災害の教訓報告書・体験集」が紹介されています。http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/saikyoushiryo.htm

 ◆すぎもと・めぐみ 京都府生まれ。京都大大学院修了。東京大地震研究所特任研究員などを経て、2014年度から九州大助教、20年度から准教授(男女共同参画推進室)。専門は防災教育、災害リスクマネジメント。在インドネシア日本国大使館経済班員として2004年スマトラ沖津波の復興と防災に携わる。「九州大学平成29年7月九州北部豪雨災害調査・復旧・復興支援団」メンバーとして福岡県防災賞(知事賞)受賞。編著に「九州の防災 熊本地震からあなたの身の守り方を学ぶ」。

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