韓国民主化、在日後押し 真相、世界に発信 光州事件40年

西日本新聞 国際面 塩入 雄一郎

 韓国南西部・光州市で民主化を求める市民に軍が発砲、多数が死亡した1980年5月の「光州事件」。当時、日本国内でも「光州を孤立させない」と民主化運動に呼応し、活動を繰り広げた在日韓国人たちがいた。中心的な役割を果たしたのは「韓国民主回復統一促進国民会議」(韓民統)。その活動は日本の世論に影響を与え、韓国からは発信が難しかった光州の真相を世界に広めた。事件から40年。もう一つの民主化運動をたどった。

 ≪民主主義は決して他から与えられるものではない。それを求める民衆の闘争によってのみ勝ちとられるものである≫

 韓民統の機関紙「民族時報」は80年5月の紙面で、光州の学生デモを弾圧した戒厳軍に対する徹底抗戦を在日同胞に呼び掛けた。

 作家の黄英治(ファンヨンチ)さん(63)=千葉県=は当時、大阪で大学4年生。韓民統の傘下団体「在日韓国青年同盟」(韓青)メンバーだった。光州で軍による学生鎮圧が始まった18日、東京の犠牲者追悼集会に参加し、集会後に在日韓国大使館周辺であった抗議活動に加わった。

 集まったのは約300人。通りには規制線が張られ、機動隊が待ち構えていた。「通せ、通せ」「何をしとるんや」。機動隊ともみ合いになりながらスクラムを組んで行進した。「同じ学生が倒れていくのを見て、じっとしていられなかった」と当時の心境を語る。

 北九州市在住の映像カメラマン、金利明(キムイミョン)さん(57)も突き動かされた一人だ。当時は高校2年生。在日韓国人であることが嫌で、小中学校時代は日本名で通した。だが「光州に出合い、価値観が間違っていた」と気付き、本名を宣言。「彼らに恥ずかしくない生き方をしないといけないと思っていた」と振り返る。

 ただ、事件後に韓民統や韓青が日本各地で開いた集会は、軍事政権側を支持する保守層の在日韓国人に妨害され、衝突も起きた。学生たちは親に「韓国の恥を広めるな」ととがめられ、外に出られないよう髪を切られた女子学生もいた。

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 一方で、運動には日本の革新系労働組合や知識人たちの日韓交流グループ、キリスト教信者などが連帯した。とりわけ光州事件を首謀した政治犯として金大中(キムデジュン)氏に死刑判決が言い渡されたニュースは注目を集めた。福岡市・天神など全国各地で大学生や労組員がハンガーストライキを決行。釈放を求める署名運動が広がった。

 当時、札幌市の大学生で韓青メンバーだった書店経営韓基徳(ハンキドク)さん(62)=愛知県=は、学内で2万5千筆の署名を集めた。「大学の教職員組合も協力してくれた。街頭では多くのカンパが集まり、日本人は運動に好意的だった」と話す。

 政界では社会党のほか自民党内のハト派も民主化運動を支援し、日本政府に対応を求めた。全国50を超える市町村議会が金氏救出の緊急措置を求める意見書を採択。世論に押された日本政府は、首相や外相が死刑判決に憂慮を示すなど対応を変えた。

 韓民統は日本だけでなく世界にも光州の訴えを届けた。80年11月、スペインであった社会主義インターナショナル世界大会。50カ国の左派系政党が集まる席上、韓民統の代表団は金氏の救出を呼び掛け、大会議長が「金大中を殺すな」と3回叫んだという。

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 「光州を広げなあかんという気持ちと、金大中氏が殺されるかもしれんという切迫感で動いた」。現在、韓民統から組織改編した在日韓国民主統一連合(韓統連)の孫亨根(ソンヒョングン)議長(68)は当時をそう振り返る。

 ただ、保革対立の激しい韓国で、韓民統はなお警戒の対象だ。北朝鮮との戦争がまだ正式に終結していない韓国には国家保安法があり、韓国政府は78年、韓民統を同法に基づく反国家団体と規定。それは今も続き、一部の幹部は現在も自由に韓国に入国できない。孫議長もパスポートの発行が途絶え、現在は韓国に渡航できずにいる。

 一方、革新系の文在寅(ムンジェイン)政権の下、韓国でも在日韓国人たちの民主化運動に光が当たり始めており、光州市の公設機関「5・18民主化運動記録館」が調査に乗り出した。「民主化は韓国の国民が闘い、苦労を重ねて勝ち取った。私たち在日同胞も心を共にして闘ったことを多くの人に知ってもらいたい」と孫議長は話す。 (塩入雄一郎)

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【ワードBOX】韓国民主回復統一促進国民会議(韓民統)

 1973年、朴正熙(パク・チョンヒ)軍事政権打倒を掲げる在日韓国人が結成。当時、民主化運動指導者だった金大中氏を議長に内定したが、金氏は就任直前に韓国の情報機関に拉致された。78年には、幹部の1人が北朝鮮のスパイ活動を首謀したとして、韓国政府から国家保安法に基づく反国家団体に規定された。89年に在日韓国民主統一連合(韓統連)へ改編。日本国内に7支部あり、本部は東京。会員約500人。

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