【DC街角ストーリー】分断社会、ぶつかり合う「正義」

西日本新聞 田中 伸幸

 5月末、ワシントン近郊の自宅周辺には春の陽気に誘われて散歩を楽しむ人たちがいた。新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出禁止措置が解除されて最初の週末。営業規制など感染警戒は続くものの、マスク越しの表情から少し安堵(あんど)感が見て取れた。

 しかし、15分ほど車を走らせた先のホワイトハウス周辺には、そんな穏やかさを吹き飛ばす黒人の若者らの叫びがこだましていた。「正義がないところに平和はない」

 白人警察官が黒人男性を拘束し、暴行死させたとされる中西部ミネソタ州の事件に抗議するデモは首都にも拡大。「白人警官対黒人市民」の対立構図は頻繁に社会問題化するが、今回は白人至上主義者でさえ警察の対応を非難し、黒人社会への同情が広がる。

 ところが30日夜、デモ隊の一部が暴徒化し、ホワイトハウス近くの銀行やレストランの窓がたたき割られる騒動に発展した。「抗議の思いは分かるが、こんな行為が許されていいのか」。経営する飲食店のガラス壁を壊された男性(60)はコロナ禍で売り上げが激減する中、ようやく外出禁止が解除された喜びの直後の災難に怒りをにじませた。

 31日昼、暴動現場の様子を見に訪れた市民からも、「正義」の名の下に民間への被害もいとわない実力行使に疑問を呈する声が上がった。

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 建物の外壁には、警察批判にとどまらず「金持ちは、もはや安全ではない」といった過激な言葉も書き残されていた。深刻な格差拡大の元凶は白人優位の資本主義社会にあるとの不満も噴出させた格好だが、その矛先は大企業や富裕層を優遇し、移民政策が差別的だと批判されるトランプ大統領にも向けられ、口汚く罵倒する壁書きも目立った。

 こうした抗議にトランプ氏を支持する白人らは「不法移民に厳しく対処するのは国家としての正義だ」などと反発。この日のデモ参加者に食ってかかろうとする人もいた。

 11月の大統領選は「親トランプ」と「反トランプ」の国民が、価値観や道徳観を含め互いに正しいと信じて譲らない「正義」がぶつかり合う場となる。抗議デモに駆け付けた元州兵のカグニーさん(24)は、新型コロナの感染が再拡大しかねないと懸念されても大規模デモが発生する現状に驚きつつ、真顔でこう予言した。「トランプが負けたら、結果を認めない支持者が暴動を起こすだろう」

 路上には「戦争を望む」との物騒なメッセージもあった。分断社会の末路は、市民同士が衝突する「市民戦争」-。識者のこんな指摘は杞憂(きゆう)に終わると願いたいが、コロナ禍からの回復期待もつかの間、暴動を受け新たに夜間外出禁止令が出た街には不穏な空気が満ちる。(ワシントン田中伸幸)

 =随時掲載

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