「なごり雪」が描く古里 下村佳史

西日本新聞 オピニオン面 下村 佳史

 「ふるさと」を漢字にするとき、どの文字を使いますか。「故郷」ですか、それとも「古里」ですか。

 先が見えない新型コロナウイルス禍。この混沌(こんとん)から抜け出す道しるべはないものかと考えを巡らしていて、4月に亡くなった大林宣彦監督が語った「古里」が、ふと心に浮かんだ。

 「古里映画」と呼ばれる数々の作品を全国で撮ってきた監督。その舞台となった「古里」は、生まれ育った地を指す「故郷」ではない。古くからの文化が息づき、賢く和やかに生きていく知恵のある人々が暮らす里のことだ。

 この欄で先日、追悼の気持ちを込め、平和を切に願う監督の精神をつづった。監督が平和と一体であるとの思いで守ろうとしたのが、この古里の暮らしだった。

 佐賀県唐津市で5年前、撮影地を探すロケハンを取材した時、監督は古里として撮影する土地について、こう語った。「古いものが残っているというよりも、残しているんです。文化に愛着と誇りがあり、それを伝え、生かしている。穏やかな明日を願いながら暮らす人たちは『戦争ができる国』にはしない」

 古里には「平和と同じ普遍的な正しさがある」ことを伝えたかったのだと思う。監督はそれを「正気」と表現した。「命は大切にしないといけない」と子供が素直に抱く、そんな気持ちにも例えられる。知性に頼って、戦争すら必要とする大人の都合の「正義」とは対極をなす。

 大分県臼杵市が舞台となった「なごり雪」(2002年公開)も、その「正気」によって作られた。高度経済成長期、恋人を捨て都会に出た主人公の青年。50歳を過ぎ、その恋人と結婚した旧友に呼ばれて古里に帰る。恋人は意識不明の重体になっていた-。

 経済的な豊かさを求めて古里を去った主人公、昔と変わらない古里に残って妻を最期まで守った旧友。2人の「幸せ」を通し、敗戦からの復興を果たした後、金と物を求め、古里を壊し開発に突き進んでいった社会のありようを問い直す。

 「なごり雪」は、同県出身の伊勢正三さんが作詞作曲した同名の歌から着想を得た。

 「今 春が来て 君はきれいになった」。この歌詞に、監督は一人一人がそれぞれの相手を「きれい」と思い、認め合う「オンリーワン」を感じ取ったという。

 「ナンバーワン」を目指す競争社会ではなく、争わない共存の社会。コロナ禍を共に耐え、我慢する今、監督の描いた古里をよりどころにしている。 (福岡西支局長)

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