院内感染、水際阻止に限界 熊本地域医療センター 早期発見へ独自PCR

西日本新聞 熊本版 古川 努

 新型コロナウイルスはわずかな隙間からも侵入する。命を守る拠点も例外ではない。熊本県内で唯一、院内感染が発生した熊本地域医療センター(熊本市中央区)が得た教訓は「完璧な防御は不可能」-。経験から導いた「第2波」対策は現実的だ。最大限の水際対策を講じる一方、ウイルス侵入も想定。独自のPCR検査による早期発見と封じ込めを図る。

 正面玄関に入ると「第一関門」がある。「お熱を測りますね」。医療スタッフが非接触型体温計ですべての来院者を検温。「入り口で発熱の有無が分かれば対策が取れる」。同センター呼吸器内科部長の藤井慎嗣医師はあの日を振り返り、そう語る。

 4月11日午後4時56分。土曜の休日夜間急患センターの受け付けに、70代男性が事前連絡なしで現れた。訴えは「ぜんそくの発作で息苦しい」。日直の医師は首をかしげた。男性の胸からは、ぜんそく特有の音が聞こえなかったからだ。

 コンピューター断層撮影(CT)の結果が出ると、処置室は緊迫した。「ウイルス性肺炎ではないか」。対応した医師や看護師が身につけていたのはマスクと手袋だけ。ほぼノーガード状態だった。

 「発熱の察知が遅れた。油断があった」と藤井医師。院内には新型コロナ対策で隔離病室を準備しており、完全防備で診察できていたはずだった。事前連絡さえあれば-。同日夜、70代男性の新型コロナ感染が確認された。

 1週間後、処置室での補助業務や隔離病室内の担当をした40代女性看護師の感染が判明した。年間約1万7千人の小児救急外来を受け入れてきた拠点は、閉鎖に追い込まれた。

 さらに同僚の女性看護師の感染が判明し、接点がなかった臨床検査技師にも飛び火。長尾美鈴看護師長は「自分たちも媒介者になることに気付いていなかった」。看護部を中心に朝昼晩の全館消毒を始めた。感染の連鎖は止まったように見えた。

 その後2週間、新規感染者はゼロ。「院内感染は終息した」とみて5月7日に診療を再開した。だが翌8日、濃厚接触者として自宅待機し、国の基準の2週間が経過した20代男性臨床検査技師の感染が確認された。センターは再び閉鎖。藤井医師は「これがコロナの怖さだ」と感じたという。

 男性は自宅待機中に一度発熱していたが、国の基準に従えば職場復帰は問題なかった。だが、杉田裕樹病院長は慎重だった。民間検査会社による独自のPCR検査を提案。これが早期発見につながった。杉田病院長は「放置していたら、院内は濃厚接触者だらけになっていた」と推測する。

 これをきっかけに対策マニュアルを大きく見直した。発熱した職員にはただちに自宅安静とし、72時間後に民間検査機関で独自のPCR検査を実施。陰性確認後、解熱剤なしで72時間症状がなければ職場復帰-。保健所の協力を得た分も含め、これまでに計17人が検査を受けたという。

 「絶対の安全はない」と藤井医師は繰り返す。ならばウイルスの侵入を早期に察知し、迅速に対応するしかない。杉田病院長は「ウイルスが自然の一部である以上、公式通りには収まらない」。苦境を乗り越えた経験が「次」に備えた「抗体」となるか。(古川努)

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