「縁を切る」大げんかも…高齢者の免許返納、必死に説得する家族

西日本新聞 社会面 小川 勝也 長松院 ゆりか

 1年にわたり家族に説得されて運転免許証を自主返納した人、生活のために運転を続ける人-。昨年6月に起きた福岡市早良区の多重事故は、高齢者とその家族が運転を考えるきっかけになった。それぞれの事情と思いに耳を傾けた。

 「免許証の取消通知書は『卒業証書』みたいなもの。大事にしてくださいね」。2日午前、福岡市南区の福岡自動車運転免許試験場。次女の付き添いで免許を返納した豊島美代子さん(84)=同市西区=は通知書を見つめた。「もう腹いっぱい運転した。悔いはない」

 早良区の事故を機に次女から返納を強く勧められた。夫の通院や買い物に車が必要で「絶対大丈夫」と拒み、言い合いになった。昨年7月に心臓の病気になり、考えは変わっていった。次女は言う。「母が車で出掛けると心配でたまらなかった。負担は増えても不安がなくなり家族は喜んでいる」

 福岡市南区の渕上博さん(73)も2日に返納した。病気や認知症はないが「年を取ると不安はある」。移動は公共交通機関と徒歩になり「健康にはいいけど、遠出は減るだろう」と寂しげだ。

 「誰よりも運転がうまい」が口癖だった三浦和子さん(77)の夫(78)=福岡県大野城市=も昨夏、返納した。傷だらけの車を見た家族は鍵を隠して運転を止めようとするなど「家族も夫も必死で大げんかをした」と和子さん。今は、息子たちが買い物に連れ出し、けんかもなくなった。

 和子さんは「高齢で運転する人は家族が心配しているのを忘れないでほしい。本人と家族が真剣に向き合って運転について考えることが大事」と訴える。

 一方、交通の便が悪い山間部で車は不可欠だ。福岡市早良区椎原に住む鶴田シヅ子さん(87)は車でほぼ毎日畑仕事に通い、相棒のような存在だ。「野菜を育て収穫するのが仕事。車がないと生きていかれんたい」。90歳まで運転する決意という。

 「(返納しないと)親子の縁を切る」。同県春日市の男性(82)は昨年、息子からこう迫られた。「楽しみを奪われる」と抵抗し、自動ブレーキなどを備えた新車に乗り換えて運転を続ける。「より注意深く運転するようになった」と慎重にハンドルを握る。 (小川勝也、長松院ゆりか)

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