コスト抑制で進む脱オフィス 不動産市況、悪化の懸念も

西日本新聞 総合面 中野 雄策

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、オフィスを引き払ったり縮小したりする企業が相次いでいる。自宅などを職場とするテレワークを導入し、広いオフィスが不要になっているためだ。テレワークの急速な普及が、不動産市況の悪化につながるとの懸念も広がっている。

 「テレワークで業務を滞りなくできた」。人工知能(AI)関連のベンチャー企業コネクトーム・デザイン(東京)の佐藤聡社長(55)は、東京駅近くのオフィスを月内にも引き払う理由をこう語る。

 AI活用戦略コンサルティング事業の拡大に伴い、昨年8月に約100平方メートルのオフィスを借りたばかり。3月に社員14人を全員テレワークとしたが、押印作業や郵便物以外は困らなかった。感染拡大前はオフィスの拡張移転も検討していたが、一転してなくすことを決断した。

 佐藤社長は「働き方に自由度があるほうが、優秀な人材が採れる」と、もう一つの理由を語る。

 AI技術者は新卒で年収2千万円以上の条件が珍しくないほど採用環境が厳しい。さらなる事業拡大を見込む中、先進的な働き方は人材確保に不可欠というわけだ。

コロナ前後

 多くの企業がテレワークの導入で出勤者を減らせることに気付き、コスト抑制効果も見込んでオフィスの削減に動いている。

 オフィス仲介のヒトカラメディア(同)によると、感染拡大前は月1、2件だった退去件数(居抜き物件)が4月以降は計38件に急増。感染拡大前はオフィス拡張を前提とする移転の相談が全体の9割以上を占めたが、現在は縮小のための移転に向けた相談がほとんどで「コロナの前と後で全く逆の状況になった」(営業担当者)という。

 オフィスの役割が変わる可能性もある。同社は5月末から、縮小のための移転先の内装を提案するなどの新サービスに乗り出しており、担当の山川知則さん(39)は「単純な作業の場ではなく、企業文化や従業員の愛着心の醸成、人材育成、アイデア創造のための場に変わる」と予測する。

出社率50%

 政府の緊急事態宣言が解除された後もテレワークを続ける大手企業は多い。

 大和証券グループ本社の中田誠司社長は5月下旬の経営戦略説明会で、東京本社の縮小について「50~70%程度の出社率で業務が可能となれば、他の多くの会社と同様に検討しうる」と言明。大手にもオフィスを整理する動きが広がりそうな気配だ。

 オフィスの需要が落ち込めば、景気回復の象徴だった不動産市況が大きく悪化する恐れがある。

 日本総研の試算によると、東京の企業で全従業員の1割がテレワークを継続した場合、4月に1・5%程度だったオフィス空室率は15%近くに上昇する。6年以上上昇が続く平均賃料は2割下落し、2008年のリーマン・ショック後の水準まで落ちこむという。

 室元翔太研究員は「オフィス賃料が下落すれば、ビルや土地の資産価格も下がり、日本経済に悪いインパクトを与える可能性がある」と指摘する。 (中野雄策)

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