黒人暴行死デモ 分断あおらず耳を傾けよ

西日本新聞 オピニオン面

 米国における社会の分断と人種差別の根深さを改めて思い知らされる。しかも、混乱を深める言動を繰り返しているのが大統領である。まず融和を呼び掛けて沈静化を図るべきだ。

 黒人男性が白人警察官に首を押さえつけられ死亡した事件に端を発する抗議デモが収まらない。デモは米国全州に広がり、各地で夜間外出禁止令が出された。まさに異常事態である。

 抗議のうねりは公民権運動を率いたキング牧師が暗殺された1968年以来の規模という。

 米国は戦後も学校やバスなど公共の場で黒人を隔離する差別が続いた。キング牧師は非暴力で撤廃を唱え、64年の公民権法制定に貢献した。その歴史的人物の衝撃的な死への抗議に匹敵する現象が起きているのだ。

 警察官が一方的に黒人を犯人扱いし暴力を振るう事件はこれまでも度々あった。今回ここまで抗議活動が膨らんだのは、人種差別に加え、新型コロナウイルスの感染拡大による社会不安の高まりがあるからだ。

 人種差別は法的にはなくなったが、今も黒人の平均収入は低水準にとどまり、店員や運転手といった在宅勤務が難しい仕事に就く人も多い。コロナによる死者や失業者の割合が高く、生活の厳しさは増している。

 デモの参加者が人種を超えて広がるのは、差別解消や暴力の理不尽さを訴える声に、生活苦にあえぐ人々が共感しているからだろう。事件現場で被害者が発した「息ができない」という悲痛な叫びがデモ隊の合言葉になったのはその証左だ。

 まっとうな一国の指導者であれば、この事態を受けて冷静な対応を呼び掛け、差別根絶に取り組む姿勢を示すだろう。

 しかし、トランプ大統領の振る舞いは、それとは逆方向だ。死者への追悼や差別に対する憤りのメッセージが聞かれないばかりか、抗議活動を徹底して力で制圧する構えで、連邦軍の投入も辞さない方針を表明した。

 確かに、デモに便乗した略奪や破壊は決して許されない。現状で大多数の市民は平和的に社会の変革を訴え、警察官の一部は共感や連帯を示している。それでも力で抑え込もうとするのは民主主義に反する。

 トランプ氏の念頭にあるのは11月の大統領選だ。コロナ対応の失政を挽回しようと支持者の多い保守層、白人労働者を意識して強硬姿勢を取るのだろう。

 それが社会の分断を深め、混乱を広げている。トランプ氏は香港の民主化運動を弾圧する中国政府を非難するが、その資格が疑われる。今なすべきは、感染リスクを冒してまで街頭に出て差別解消と公正さを求める人々の声に耳を傾けることだ。

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