順調な新生活…「私の努力って」コロナで派遣切りに ヒカルその後

西日本新聞 黒田 加那

連載「19歳の地図」~ヒカルその後

 母親からの精神的暴力を訴え、西日本新聞「あなたの特命取材班」にSOSを送ってきたヒカルのことを覚えているだろうか。記者は連載「19歳の地図」で、ヒカルを取り巻く法律や社会の壁を取り上げた。その後、彼女はアルバイトを続けて自立、念願の1人暮らしを始めた。そんな折、LINE(ライン)のメッセージが突然届いた。「新型コロナウイルスの影響で、4月末で契約を切ると派遣会社に言われました」

 メッセージが届いたのは政府が緊急事態宣言を発表した翌日、4月8日だった。派遣会社に登録し、パチンコ店で働いていた。店は3月中旬から休業。経営が厳しく、派遣社員に契約打ち切りを伝えていた。

 「客足がコロナ以前に戻れば、直接雇用したい。声をかけるまで待って」。店長の言葉が励みだった。

 だが、5月に入ると、店長から店に置いていた私物を取りに来るよう告げられた。店に向かうと、仕事用の靴や先輩からの助言を書き留めたメモが紙袋にまとめてあった。もうすぐ働き始めて1年、業務にも慣れ、ようやくやりがいを感じてきたところだった。

 「私の努力って1袋で納まるものだったんだ」

 気分が落ち込んだ。もともと双極性障害(そううつ病)があり、重いうつ状態になった。治療薬が切れそうなので病院に行こうとしたが、外出する気力もなく、一日中ベッドから起き上がれない日が続いた。

母のことも「分かった気がする」

 連載後もヒカルは生活のあれこれを記者に知らせてくれた。

 今年1月、20歳の誕生日を機に、親の承諾なしに不動産物件を契約できるようになった。バイト先に近いアパートに決め、実家から引っ越した。家賃3万円以下のワンルーム。それでも「自分の城」ができた。

 勝手に自立したことに母親は怒った。でも、ひるまなかった。今までにされて嫌だったこと、一緒にいるのは限界だと感じていたこと。全てをメモにまとめて伝えた。

 すると、母も思いを語り始めた。別居している夫との関係などから、もう10年以上精神的につらい状況にあることなどを明かした。「あまり良い親になれていないと自分でも思っている」。母は謝罪した。母から受けたつらい言葉を全て許せるわけではない。「それでも前よりお互いのことが分かった気がする」

 新居先でもパチンコ店のバイトを継続し、生計を立てた。上司から「接客が良くなってきた」とほめられ、店の戦力になっている実感が持てた。

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