ポストコロナ時代の大学教育 松原孝俊氏

西日本新聞 オピニオン面

◆講義公開化 問われる質

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い政府が緊急事態宣言を出した4月7日、全国の大半の大学キャンパスは「ロックダウン」(学生・教職員の入構禁止)された。文部科学省は中国や欧米の先例を見据え、間髪を入れず大学にオンライン講義の導入を要請した。

 外出自粛要請の下、大学もオンライン講義に見切り発車し、キャンパスには一気にウェブ会議システム用語が氾濫した。たとえ学生のインターネット環境が不十分で、教員がオンライン講義に一度も手を染めたことがなくても、大学側は有無を言わせなかった。

 5月の連休明けから、オンライン講義が本格化した結果、福岡市の大学関係者は異口同音に「教育の質」が向上したという。理由を探ってみると一つは、例えて言えば「教室の王様が教員でなくなったこと」である。教室での講義は密室化していて、教員が遅刻しようとも講義のレベルが低かろうとも誰も口に出すことはなかった。

 確かにテレビの放送大学や、ネットを活用した無料の公開オンライン講座(MOOC)などの先駆もあった。が、オンライン講義が一気に拡大したことにより、各大学の教育内容は公開さながらに衆人環視の下に置かれ、手抜きが許されなくなった。第三者評価も可能である。教員は飽きられないように手作り感満載の動画やフリップなどを準備し、学生と大学に約束したシラバス(授業計画)通りの講義に力を注ぐことになった。

 二つ目は、学生のやる気が誘発されたことである。オンライン講義によっては、モニター上に参加した順に同一サイズの画像が並び、完全にフラットであり、しかも学生全員が最前列の席に座っているかのようである。授業態度、やる気までも相互に凝視し、視認し合っている。システムによっては15分以上席を離れたらアラームが鳴る。教室とは異なり周囲の目を気にすることもないので、手を挙げての発言も多くなったという。

 コロナ収束後も振り子は元に戻らないだろう。一長一短があるにせよ、大学では対面講義とオンライン講義の二つのメリットを組み合わせた「ハイブリッド型講義」へ移行するはずである。例えば事前・事後学習はオンライン講義で実施し、教室での実習に備えるというやり方も一案である。教員の出張や自然災害などの場合でも、オンライン講義を準備すれば休講措置を取るまでもない。

 特記したいのは、引きこもりや学習障害、身体に障害があるなど教室に通いづらい学生への学ぶ機会を提供できることに皆が気付いたことである。

 さらに、質の高い講義を求めて大学が世界を奔走し、例えば「白熱教室」で知られるハーバード大のマイケル・サンデル教授のような著名人をモニター上に登場させる可能性さえある。国の大学設置基準に守られてきた教員も、もはや安閑としてはいられない。

 文科省は2019年12月、全国の学校に高速大容量の通信ネットワークを張り巡らす「GI(ギ)GA(ガ)スクール構想」を打ち出した。コロナショックは、その追い風となっている。オンライン講義に代表されるサイバー空間(仮想空間)と、フィジカル空間(現実空間)を融合させた「21世紀モデルの大学教育」への転換は必然である。

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 松原 孝俊(まつばら・たかとし)九州大名誉教授 1950年、島根県生まれ。専門は日韓文化史。九州大学韓国研究センター長などを歴任。「福岡-釜山フォーラム」福岡側事務局長。

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