学校再開で大切な子どもの心のケア 識者「一人一人と話す時間を」

 新型コロナウイルスの沈静化を受けて全国の学校が再開された。長い“巣ごもり生活”から解放された子どもたちは、ようやく新学期のスタートを切ることになったが、いつもと異なる学校の風景に戸惑いも見せる。感染予防の「3密」対策と学習の遅れを取り戻すことに追われがちな現場では、子どもの心のケアに対する重要度が増している。

 「おはようございます」。5月中旬、佐賀県の小学校教諭は、学校に戻ってきた子どもたちの元気な声に胸をなで下ろした。

 同県内の学校では休校中、家庭訪問をしたり、登校日を設けたりして教員が子どもの様子を観察。変化を見逃さないよう心掛けてきた。ただ、再開された学校は一人一人の机を離し、給食は向かい合わせにせず、教室で大きな声を出さないなど、平時より細かいルールに縛られる。

 「子どもたちは息苦しさを感じるかもしれない。まずは学校生活に慣れさせ、負担が大きくならないようにしながら遅れた学びに対応したい」と教諭は話す。

 本来なら約2カ月前に始まっている新年度。1学期は子どもたちが新たな人間関係を築き、教員はそれぞれの個性を見るための行事も多いが、コロナの影響でほぼ全ての学校が中止か先送りを決めている。福岡市の小学校に勤める50代女性教諭は「子どもの内面は見えにくく、いろんなアンテナを張っていかないといけない」と、学校の日常に神経をとがらせる。

 学校再開に当たり、各自治体は夏休みの短縮や授業時間を短くしてこま数を増やし土曜授業も実施する。学習の遅れに国語などの5教科を優先させる学校が目立つ中、高校入試などで見えない出題範囲に焦りを募らせる受験生も少なくない。

 NPO法人「全国不登校新聞社」編集長の石井志昂さん(38)は、そんな学校の「塾化」を懸念する。「交流している多くの子が学校再開を前に緊張感を高め体調の異変を感じていた。そういう子でなくても、余裕のない状況に敏感になり学校に行けなくなるケースは増えると思う」

 さらに気をもむのが、いじめの多発だ。教室でせきをする子や手洗いを忘れた子を集団で責める。密集、密接を避けると称して仲間はずれにする。「自分より弱い人間を探し、コロナを理由にしたいじめが起きやすい環境にある」と指摘し、長期の休み明けや新学期に目立つ子どもの自殺にも警戒を呼び掛ける。

 リスクにどう向き合えばいいのか。石井さんは子どもたちへ「学習も大事だが遅れは取り戻せる。学校が始まって不安なら無理をせず休んでいい」と訴える。

 休校対策で各学校では家庭でも学べるオンライン授業の整備が進む。「オンラインでこれまでできなかったことがカバーできるようになる。全てなくとも子どもが望む方法を整えるのも大人の責務だ」

 九州大大学院の増田健太郎教授(臨床心理学)が重視するのは対話と共感。「数分でいいので一人一人と話す時間をつくってほしい。聴いてくれる大人がいることで子どもは安心する。家庭で今日の学校の様子はどうだったか尋ねるだけでも違う」と言う。

 北九州市では「第2波」とみられる感染が子どもたちにも広がり、再び休校する学校も出ている。増田教授は、感染者や医療従事者の子どもらを守るためにも教育の徹底を訴える。「誰もが感染する可能性があり、救うのは医療従事者。感染者になったらどんな気持ちで、周りにどうしてほしいか。しっかりと教え、考えさせることが、子どもたちがやってはいけない言動を防ぐことになる」

 それでもリスクを抱えた子どもへの対応を学校現場だけに委ねるのは無理がある。見守りや相談、学習支援の充実には教員OBや通学路に立つ地域住民も協力できる。何より大事なことは子どもたちが日々、背中を見ている親が動揺しないこと。「感染」するのはウイルスだけでないことを大人は自覚すべきだろう。

 (本田彩子、編集委員・前田英男)

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