就職の高い壁をなくしたい 菊池良和(九州大病院・吃音外来医師)

西日本新聞 医療面

連載:吃音~きつおん~リアル(24)

 短大2年の女性は小学生の時から、吃音(きつおん)をまねされたり、指摘されたり、笑われたりしたそうです。中学時代は不登校も経験して、自分に自信を失っていました。中等度の吃音に加え、吃音が原因で受けたストレスによる2次障害として重度の社交不安症(赤面症)がありました。就職活動では面接でほとんど話せず、不採用続き。社会人となるための高い壁に直面し、落ち込んでいました。

 「しゅ、就職、し、しないと、い、いけないけど、め、面接では、う、うまく、は、話せない」。診察室で就活を振り返ってくれました。時折すてきな笑顔を見せてくれますが、就活は苦戦すると思いました。そこで、障害者手帳を取得して「障害者枠」での就活に切り替えないかと提案しました。

 当初、両親と本人は「障害者枠なんて」とためらいました。私は「就職後も会社にコミュニケーションの方法などで配慮してもらう必要があるなら、一つの選択肢です」と説明しました。そして、彼女は「精神障害者保健福祉手帳」を取得して就活を再開しました。

 障害者のための合同就職説明会で、興味を持った公的金融機関の事務の正社員に応募。30人の中から1人だけ採用されました。もちろん、彼女が働くための合理的配慮について会社が一緒に考えてくれました。窓口対応は難しいため、本店での内勤に配属してもらい、もう3年以上働き続けています。

 これまで教育現場での合理的配慮の事例を紹介してきましたが、最も配慮が難しいのは就職だと実感しています。吃音は「単なる癖」で個人の責任ではなく、障害者差別解消法などの法律で支援を受けられる対象に変化してきました。吃音のある人たちが社会人になっても「今のまま、あるがままでいいんだ」と実感するため、企業や社会の理解を深め、就職の高い壁をなくしていきたいと思います。

 (九州大病院医師)

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