現代の奈良を舞台に、『日本霊異記』ゆかりの謎を解く 福岡在住の髙樹のぶ子が描く古典ミステリー

西日本新聞

 不真面目な学生だった筆者は、古典の授業の「常連」である『宇治拾遺物語』や『今昔物語集』などを「古くてとっつきにくい話」だと思っていた。100以上の奇妙な話が収められた仏教説話集『日本霊異記』もそのひとつだ。しかし、本書を読んで、その考えを改めた。これはとんでもない“沼”、つまり人を引きずり込むだけの魅力があるものだったのだと。

 『明日香さんの霊異記』は髙樹のぶ子氏による、現代の奈良を舞台とした古典ミステリーだ。『日本霊異記』を愛する薬師寺の職員・高畑明日香は、奉納されている絵馬をこっそり見るのが趣味。しかしある日、絵馬に幼い字で「母は殺された。どこに埋められているのか。母に会いたい」と書かれているのを発見する。『日本霊異記』に記された地で事件が起きていることを知った明日香は、『日本霊異記』の編纂(へんさん)者である僧・景戒から名をとったカラスのケイカイや、ミステリー好きな畳屋の繁さんらの助力を得ながら謎を追う。

 そんな、やや血なまぐささの漂う事件の他、「鐘つき堂の馬鬼と蛇鬼と猿鬼に殺される」とメッセージを残して失踪した女子高生や雷を呼ぶ少女など、『日本霊異記』ゆかりの想像を絶するトラブルが明日香を襲う。

 やはりワクワクするのは、現代に出現する一見解けそうもない謎が、『日本霊異記』の内容と呼応しているという点だ。たとえば、「馬鬼と蛇鬼と猿鬼に殺される」と残していなくなった女子高生の事件では、「元興寺(飛鳥寺)の鐘つき堂で、怪力の童子が鬼退治した話」を手がかりに解決していく。明日香が『日本霊異記』や、地名、人名のことになると熱くなるのも面白い。オカルト&歴史好きにはたまらないだろう。

 同時に、作者の『日本霊異記』、ひいては日本の歴史に対する深い愛にも感じ入らざるを得ない。特に、「どんなに地形が変わり、建物が移動して景色が変わっても、地名はそのまま、まるで歴史の証文のように生き続けてきたし、これからも生き続ける」という一文には、土地に対する認識を変えさせられた。何気なく書類に記入している住所にも、住んでいる者の知らないいわれがあるのかもしれない。

 伝奇と歴史と推理の美しきマリアージュを、心ゆくまで味わっていただきたい。

 

出版社:潮出版社
書名:明日香さんの霊異記
著者名:髙樹のぶ子
定価(税込):1,045円
税別価格:950円
リンク先:https://www.usio.co.jp/books/ushio_bunko/20646

西日本新聞 読書案内編集部

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