元共同通信日銀キャップが描く、息詰まる巨大銀行の権力闘争

西日本新聞

 元共同通信経済部記者が、メガバンクの未来や組織のありようを独自の視点で描き出す。本作は、巨大銀行内部のトップ人事をめぐる抗争を描いた経済小説だ。派手な立ち回りはないが、情報戦や心理戦、水面下の駆け引きを巧みに表現しながら、圧倒的なリアリティーをもって描かれている。

 主人公は日本一のメガバンクに勤める広報部長の寺田俊介。寺田は記者とのインタビュー中に社長の竜崎太一郎が漏らした一言から、自らの出世の可能性を嗅ぎ取る。任期延長を狙う竜崎に吸い寄せられるかのように服従する寺田は、経営難に転落した大手不動産をめぐる情報戦や大手証券との経営統合、竜崎と相談役の人事抗争……と次々に訪れる難題に直面。禁じ手の手段へと手を染め、メガバンクを覆う深い闇へと足を踏み入れていく。

 物語は、統合・合併を重ね巨大化した銀行グループ内で対立軸として機能する出身行による派閥抗争、そしてメガバンク特有の強固な人事慣行の両輪で進行する。抗争の材料には、アパートローンのサブリース問題、政府が推進するコーポレートガバナンス改革、急速に進展するウェブメディア、IT技術を活用した金融サービス「フィンテック」など現在進行形の社会事象が織り込まれる。グローバル化・デジタル化が進む現代社会で、いまだグループ内の権力闘争に暮れる巨大銀行の姿を描いた本作は、まさに経済危機の時代に即した小説と言えるだろう。

 主人公をはじめとした大手銀行役員たちの仕事の流れが忠実に描かれており、読む人の心をつかむ内容となっている。経済部記者からアカデミアに転じた著者だけに、美談では終わらせない迫力も感じられる。ストーリーにもスピード感があるので、最後まで飽きずに読み進められるだろう。本作を通して組織人としてのあり方を考えるもよし、金融界を見つめ直すもよし、社会情勢に関心を寄せるもよし。読者一人ひとりがそれぞれに、さまざまな気づきを得られるはずだ。

 

出版社:講談社
書名:よこどり 小説メガバンク人事抗争
著者名:小野 一起
定価(税込):1,760円
税別価格:1,600円
リンク先:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000341036

西日本新聞 読書案内編集部

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