種苗法もろ刃の改正 農産物流出防止も「自家増殖」規制で農家に負担

西日本新聞 総合面 吉田 修平

今国会見送り

 日本で開発された農産物の種や苗木を不正に海外へ持ち出すことを規制する種苗法改正案は今国会での成立が見送られ、秋に想定される臨時国会に持ち越される。ただ、成立すれば一部の品種は農家による自家増殖が自由にできなくなる。農家の負担増につながることを懸念し、慎重な審議を求める声も出ている。

 法改正が浮上した背景には、高級ブドウ「シャインマスカット」など優良品種の苗木が中国や韓国に不正流出したことがある。数年前から無断で栽培された安価な果実が現地に出回ったり、近隣国に輸出されたりし、生産者だけでなく農産物の輸出拡大に取り組む日本政府にとっても見過ごせない問題になっていた。

 種苗法は登録品種の開発者に原則25年の「育成者権」を認め、栽培には開発者の許諾が必要だ。ただ、国外に持ち出されれば現地で栽培が広がることを防げず「いわば海外での違法コピーが黙認されている状態」(農林水産省幹部)という。

 このため改正案では、開発者が登録申請時に栽培地域を特定の県に限定したり、日本国内に限定したりすることができる規定を新設する。こうした利用条件に違反して種苗を海外に持ち出せば、育成者権の侵害になる。罰則規定も設ける。

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 ただ、改正案で懸念されているのはこうした直接的な水際対策ではない。国内農家の自家増殖に関わる規制だ。

 自家増殖とは、農家が収穫した農作物から種を取ったり、株分けしたりして翌年の栽培に向けた種苗にすること。25年の育成者権が切れたり、もともと品種登録されていなかったりする一般品種はこれまで通り自由にできるが、改正案は種苗法に基づく登録品種について、開発者の許諾制とすることを盛り込んだ。

 その狙いについて、農水省は「国内での種苗の流れが管理でき、第三者に渡るリスクを低減できる」と説明する。その上で「地域の伝統的な品種を含む一般品種は対象外で、流通品種の大半を占める」と理解を求める。

 一方、一部の生産者には種や苗を毎回購入しなければならなくなることへの反発もある。農家や消費者らでつくる「日本の種子(たね)を守る会」は「国際的に認知された農業者の自家増殖を認める権利を著しく制限する」として、改正案からの削除を求めている。

 東京大の鈴木宣弘教授(農業経済学)は「国内品種の海外流出を防ぎたいという狙いは理解できるが、海外企業が種苗を独占する手段として悪用される恐れもある」と指摘。種苗の購入コストが高まることへの懸念を示す。

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 改正案の今国会での成立が見送られるのは、新型コロナウイルス感染症への対応で十分な審議時間が確保できなかった事情もあるが、こうした懸念への配慮が大きい。

 都道府県がコメなどの種子を安定的に供給するよう定めた主要農作物種子法が廃止された2018年の国会審議は、衆参両院で計12時間。ある自民党農林族の議員は「ろくに審議していないと多方面から批判を受けた」と振り返る。

 また女優の柴咲コウさんが4月末、ツイッターで法改正反対のメッセージを発信したことで、日ごろ農業に関心の薄い人々も注目。署名運動に発展するなど反対の声が高まった。

 コストと時間をかけて開発した知的財産をどう守り、混乱なく農業の発展につなげられるか。国会での十分な議論が求められる。 (吉田修平)

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