甲子園の夢ついえても…支えになった仲間【#最後の夏残したい!】

 「もう1本」。15日夕、佐賀市の北陵高グラウンドに3年生の石井しゅう選手(17)の大声と金属バットの高い打球音が響いた。最後の夏に目指した全国高校野球選手権大会が中止となり、一時は目標を失った。支えになったのは、仲間の存在。「自分たちの強さを確かめる」。代替大会へ気持ちを切り替えている。

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 「あんなことがあっても、今年の3年生は勢いがある」。吉丸信監督(65)はグラウンドを見つめ、ほほ笑んだ。

 唐津西高、佐賀東高を率いて夏の甲子園に計3回出場した実績を携え、2016年に北陵の監督に就任した。北陵は18年に秋の九州大会に初出場。昨年の全国高校野球選手権大会県予選ではベスト8に残った。

 今年の3年生16人の目標は、その先輩たちを超えることだった。学校もこのグラウンドを整備して後押し。先輩が果たせなかった初の甲子園へ、思いは一つだった。

 でも、5月20日、吉丸監督は選手たちに夢がついえたことを告げなければならなかった。

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 「何も言葉が言えない。先が見えなかった」。石井選手は大会中止を告げられた時のことを振り返る。涙は止まらない。周りを見ると、3年生はみんな同じだった。

 佐賀県高野連は3日後に代替大会の開催を発表。だが、石井選手は気持ちを切り替えられずにいた。

 自宅は佐賀市にあるが、遅くまで自主練習に励むため2年生から入寮。消防官を目指すための勉強時間を削って夏も冬も練習漬け。すべては、甲子園のためだった。「野球を続ける意味があるのか」。目標を失い、グラウンドから足が遠のいた。

 「『代替大会は(甲子園を懸けた)夏の大会とは違う』という気持ちは正直あった」。副将の揚村陸斗選手(17)も、もやもやしていた。小学2年で野球を始め、テレビで見てきた大舞台に必ず立ってやる、と決意していた。

 わだかまりを抱えていたのは自分たちだけではなかった。「早く引退して、受験勉強に集中する」。他校の野球仲間の間にも、そんな理由で代替大会をあきらめる選手が少なくなかった。休校が長引き勉強が追いつかない中の、苦渋の決断だ。

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 練習に顔を見せなくなった石井選手を心配して、山下大雅主将(18)が声を掛けた。「おまえと最後まで野球をやりたいんだよ」

 寮の部屋であれこれ思い出話をした。過酷な走り込みなど厳しい冬の練習を耐えたこと。時には仲間と遅くまでトランプをして遊んだこと。お互いプレーに厳しく、時には口論もしたが、ピンチの時は声を掛け、寝食を共にして支え合ってきた。話しているうちに、一緒に過ごした仲間への思いが募ってきた。「3年間で自分たちがどこまで成長できたのか知りたい」。石井選手の心に、そんな思いが湧き上がってきた。

 数日後、グラウンドに顔を出した。不安もあったが、数日間チームを抜けていたことがうそのように、3年生や監督は普段通りに接してくれた。仲間と一緒に白球を追い、合間にはたわいない雑談。「やっぱり野球って楽しい」と、心から思えた。

 今、北陵の3年生たちは7月11日に開幕する代替大会に照準を合わせている。新たな合言葉は「監督を胴上げする」。そこに甲子園への切符はない。それでも、自分たちなりの「最後の夏」を残したい。(黒田加那)

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 中学と高校の3年生が目標としてきた「最後の夏」。スポーツや文化活動の大会中止が相次ぐ今、西日本新聞「あなたの特命取材班」は、皆さんの思いや取り組みを募集して伝える「#最後の夏残したい!」プロジェクトを始めました。周囲で支えた方々もメッセージをお寄せください。全国の地方紙と連携してお伝えします。

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