片膝をつく選手たち 前田隆夫

西日本新聞 オピニオン面 前田 隆夫

 「I can’t breathe(息ができない)」

 それが最期の言葉だった。米国で黒人男性が白人警察官に取り押さえられた際、首を絞められて死亡した。

 抗議の炎が広がった。プロバスケットボールのスーパースター、レブロン・ジェームズ選手は「最期の言葉」を胸に書いたTシャツを着て、試合前のウオーミングアップをした。他チームの主力選手たちも同じTシャツで意思表示した。今年の事件ではない。6年前の出来事である。

 プロアメリカンフットボールのコリン・キャパニック選手は試合前の国歌斉唱で片膝をつき、相次ぐ黒人差別に抗議した。こちらは4年前の出来事である。トランプ大統領は「起立しないならくびだ」と怒りをぶちまけた。

 またも、同じ光景が米国で繰り返されている。

 白人警察官による黒人男性暴行死事件。膝で首を押さえ付けられた男性は「息ができない」と声を絞り出した。抗議デモの参加者はこの言葉をプラカードにして、声をそろえて不当な暴力を訴える。

 プロスポーツ界からもたくさんの選手が抗議の輪に加わる。米国で活躍する野球の大谷翔平選手、テニスの大坂なおみ選手、バスケットの八村塁選手も。大阪のデモにはプロ野球オリックスのアダム・ジョーンズ選手が参加した。

 多様な人種、国籍の選手が競うプロスポーツ界は人種差別に敏感だ。選手たちが当たり前のように起こす行動は、立場を超えて共感を広げる。

 キャパニック選手が始めたポーズは、今や反人種差別の象徴となっている。米国の友人から片膝をつく制服警察官の画像が届いた。片膝つきを禁じていた米アメフトリーグのコミッショナーは「選手が抗議の声を上げ、平和的に抗議することに賛同する」と表明した。

 私が暮らす佐世保には米海軍の基地がある。事件の余波が気になるのは、軍関係者や家族が街に溶け込んだ隣人であるからかもしれない。

 大坂選手がツイッターで発信した言葉は、日本の私たちに多くのことを考えさせる。「あなたの身に起こっていないからといって、何も起こっていないことにはならない」

 日本でも、Jリーグの試合会場にサポーターが「JAPANESE ONLY(日本人以外お断り)」の横断幕を掲げる事件があったことを忘れてはならない。身近な外国人、外国籍の人たちが心ない言動で傷ついていないか。

 米国から世界に広がる反人種差別の輪。海の向こうの話題ではない。私たちの問題である。

 (佐世保支局長)

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