「さざなみ」 熟年夫婦の危機、心の機微と人生の味わいを繊細に

西日本新聞 吉田 昭一郎

配給会社お薦めの一作~オンラインで見る「Help! The プロジェクト」

 独立系の映画配給会社が新型コロナウイルス対策で結集し、それぞれ権利を持つ旧作を会社別に「見放題」パックにまとめ、インターネットで有料配信する「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。配信13社の方々に自社パックから推薦作を選んでもらい、見どころを紹介していただいています。

 「さざなみ」(アンドリュー・ヘイ監督=2015年、英国、95分)

 ★彩プロ代表の高澤吉紀さんから

 【作品】

 今回は、配給作品の中でも特に多くの人の支持をいただいた「さざなみ」を紹介します。

 自然豊かな郊外で、平凡ながらも仲むつまじく穏やかで幸せな日々を送っていた2人暮らしの夫婦ジェフとケイト。週末の土曜日に結婚45周年の祝賀パーティーを控えていた月曜日、夫の元にかつての恋人の遺体が氷河の中から見つかったという手紙が届いたことで、彼らの土曜日までの6日間は、45年の関係を大きく揺るがしていきます。

 夫婦が重ねた45年とはいったい何だったのか? 長い年月は互いの不信や嫉妬の感情を乗り越えることはできないのか? 熟年夫婦の関係を通し、普遍的な男女の「愛」、「恋愛と結婚の違い」を突きつけられ心が揺さぶられます。

 また、本作で妻ケイトを演じて、ベルリン国際映画祭主演女優賞を受賞し、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた大女優シャーロット・ランプリング。表情やしぐさだけで徐々にざわついていく心の機微を繊細に表現する、円熟した彼女の演技は、多くの人の心をとらえて離さないでしょう。

 【彩プロ】

 2012年、「籠の中の乙女」でギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモスを発掘し、本格的に映画配給に参入しました。

 「マダム・イン・ニューヨーク」「さざなみ」「家へ帰ろう」など世界各国の良質なドラマや、「新しき世界」「弁護人」「密偵」など、今や世界中が注目する上質な韓国映画、そして、「0.5ミリ」「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」など、邦画やドキュメンタリーまで、バラエティー豊かな作品をお届けしています。

 【私の映画愛】

 映画は、作り手(企画、製作)、送り手(配給、宣伝)、受け手(映画館)が三位一体となることで観客に作品を届けることができます。どれか一つが欠けてもそれはかないません。そして観客が映画を鑑賞することで映画は完結する、というのが弊社の考え方です。

 映画には必ず作り手の魂やメーセージがこもっています。送り手が如何に伝えていくかで観客にどのように感じとっていただけるか変わってくる、それが配給業務の喜びと楽しさと考えています。

「さざなみ」より©45 Years Films Ltd

 

 ★鑑賞記者の感想

 月曜、夫にかつて山で遭難した彼の恋人の遺体が見つかったとの連絡が入ってから、夫の亡き恋人への執心が明らかになるにつれて妻の嫉妬心がじりじりと熱を帯びて、土曜の結婚45周年パーティーを迎える。熟年夫婦の安定した関係が一気に揺らぐ6日間のドラマである。

 シャーロット・ランプリング演じる妻ケイトが、段階を経て、炎のボルテージを上げていく。金切り声を上げるわけではない。その微妙に変化する心の機微の表現が、男性から見るとすさまじく、思わず引いてしまうほどだ。

 夫ジェフには、遺体が見つかった恋人はもう戻らない美しい青春そのものであり、どこかで今の自分を支えているのだろう。そのことをケイトに隠さず語るのは、ある種、妻への誠実さと信頼の証しでもあると、男性には理解できるかもしれないが、ケイトの心はじわじわと炎上していく。

 あわてたジョンは、ケイトの機嫌を取ろうとあれこれ手を尽くす。心収まらないケイトも大人の処世ぐらいは知っている。友人たちが集う45周年パーティーに何事もなかったかのように臨み、ジョンはケイトに最大級の感謝の言葉を贈る。プラターズの「煙が目にしみる」の音楽に乗って、2人でチークダンスを踊り終えた後のケイトの表情を、どう表現しようか。

 うれしさも含むが、きつねにつままれているようでもあり、むなしさも否めない。夫との距離感がつかめずに途方に暮れている、ような。そこにかわいらしさを見て取れるなら、その人は人生というものが分かっている。(吉田昭一郎)

 ◆彩プロ見放題配信パック(「さざなみ」など30作品)3カ月1950円(税込み)/寄付込み6カ月3000円。8月2日まで販売する。

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