「人生、ここにあり!」 元精神科患者、困難に挑んで「働く喜び」

配給会社お薦めの一作~オンラインで見る「Help! The プロジェクト」

 独立系の映画配給会社が新型コロナウイルス対策で結集し、それぞれ権利を持つ旧作を会社別に「見放題」パックにまとめてインターネットで有料配信する「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。配信13社の方々に自社パックから推薦作を選んでもらい、見どころを紹介していただいています。

 「人生、ここにあり!」(ジュリオ・マンフレドニア監督=2008年、イタリア、111分)

 ★エスパース・サロウ代表の甲斐秀幸さんから

 【作品】

 イタリアは「自由こそ治療」という先進的な考えから1978年、バザーリア法を施行させ、世界に先駆けて精神科病院を廃止しました。世界一、精神科の病床数が多いといわれる日本に暮らす身としては、その事実も驚きでしたが、「元患者」たちの受け入れ先となった協同組合をモデルに、本作が実際のエピソードを多分に盛り込んだドラマであると知ってさらに驚きました。

 さまざまな個性を持つ彼らは、そこで七転八倒しながら、仕事をしてお金を稼ぐ苦労や誰かを愛する切なさ、そして何よりも人生において初めて役目を持って生きることの喜びを知ります。特に自閉症で言葉が出ない青年が「理事長」役となって商談で活躍するシーンは傑作だし、新入組合員を歓迎するスピーチは、胸が熱くなる必見のシーンです。

 【エスパース・サロウ】

 今年で創業50周年を迎える「新日本映画社」の洋画配給レーベルです。エスパース(ESPACE)は「場所」。サロウ(砂漏)は砂時計の意味。世界中の砂の数ほどある映画作品の中から、キラリと光る一粒を見つけて、広く拡散していく場所であれ、という思いを込めました。

 世界の食料生産現場をアートとして魅(み)せた「いのちの食べかた」や、ニューヨークを疾走するこじらせ女子の日常をスタイリッシュに描く「フランシス・ハ」など、ジャンルやカテゴリーを問わず、「これ、やりたい!」というプレゼンターの熱意を原動力に、多種多様なセレクトをしています。最新作は、自らのお葬式の準備に奔走するおばあちゃんを描いたロシア映画「私のちいさなお葬式」など。

 【私の映画愛】

 高校時代から自主映画を撮り始め、大学卒業後も監督デビューの順番待ち気分でバイト生活を続けていた私は、どこか映画関係の会社に就職して、自主映画製作を続けたら効率が良い、という不純な動機で入社しました。入社早々、撮影で1週間休む新入社員が、よくクビにならなかったものだと今でも思います。それは先代社長の寛容さと、程なく映画配給という仕事の奥深さに気づき、夢中で仕事をするようになったからなのでしょう。

 それまで自分の映画を売り込むことしか考えていなかった私が、今では誰かが作った映画を誰かに届ける役目に喜びを感じています。それは世界中から届ける映画の一つ一つが、まるで自分が監督したような気分にさせてくれるほど、どれも愛(いと)おしい作品ばかりだからです。

「人生、ここにあり!」よりⓒ2008 RIZZOLI FILM

 

 ★鑑賞記者の感想

 映画の舞台は、精神科病院の廃止で、地域に出た元患者たちが集うイタリア・ミラノの協同組合。マイペースの組合員たちだが、現場指導に熱血漢のネッロがやってきて、「稼ぐ喜びを」と請け負えそうな仕事探しに奮闘し、みんなを巻き込んでいく。

 だが、組合員たちはそれぞれに強烈な個性の持ち主。すんなりと、ことは運ばない。「無理だ」と医師は事業強化に反対する。だがネッロは諦めない。床の板張りの仕事を探しだし、みんなで現場に出掛ける日々が始まるのだ。

 精神を患う人は人一倍に純粋で繊細な面があるから、許容限度を超える何かがあると、感情の振り幅が尋常ならざるものになるのだと思う。失敗したり、衝突したり、ぎくしゃくしたり、落ち込んだりしながら、お互いを思いやり、なんとなく補い合いながら前を向こうとする組合員たちの姿にぐっとくる。

 モデルとなった実在の協同組合は「誰でもどこかおかしくて、必ず何かを持っている」という思想を掲げるというが、懐が深くてすてきな言葉だ。笑えるし、泣けるし、元気ももらえる「人間ばんざい」のハートフルコメディーである。

 ところで、この映画。東京で毎年開催されるイタリア映画祭で2009年に上映され、評判は良かったが買い手がつかなかった。「監督と俳優は無名。精神障がいを扱う映画は難しいかな」と思った甲斐さんだが、気に入って配給を決めた。原題「Si Può Fare(やればできるさ)」にあやかって駆け回ったら、上映は全国100館以上に達し、興行収入1億円超のヒットになった。(吉田昭一郎)

 ◆エスパース・サロウ見放題配信パック(「人生、ここにあり!」など16作品)3カ月2500円(税込み、10月22日まで販売)/寄付込み・6カ月5000円、同・12カ月10000円(ともに8月22日まで販売)。

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