国家ブランドなぜ破綻? タイ航空パイロットが語る”お上”の私物化

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 タイ国際航空が5月19日に法的整理を発表して1カ月が過ぎた。タイ政府系で世界的にも知られた一流ブランドは、なぜ破綻したのか。会社がかん口令を出す中、国際線担当の中堅パイロットが匿名で西日本新聞の取材に応じた。格安航空会社(LCC)との競合激化や新型コロナウイルス感染拡大に伴う全面的な運航停止の影響だけでなく、政府や軍からの天下り幹部による私物化や、上層部に異論を言いにくい企業風土が背景にあると明かした。

 入社10年以上の男性パイロットは、欧州便や福岡を含む日本便に搭乗。豚骨ラーメンが好物だ。法的整理の発表時、まず頭をよぎったのは「これで普通の企業に変われるかもしれない」という期待だった。

 政府が過半数出資し、軍や政府OBが取締役の多くを独占。「経営悪化の根本的な原因は『上』の命令に従わないといけないこと」と感じていた。自分が搭乗した時も、天下り幹部たちのわがままな振る舞いを何度も目にした。

 バンコクから欧州への路線に搭乗する直前。乗客だった軍OBの会社幹部が「この機体は嫌い。別のメーカーの機体に替えろ」と言ってきた。一般客もいるのにかたくなに要求し続け、結局その便は欠航に。王室関係者が乗った際も空港到着が遅れ、乗り継ぎ便に間に合わない一般客のため代替便や宿泊の費用を会社がたびたび負担した。乗客、経営を無視する行為に怒りを覚えたが、異論は唱えられなかった。声を上げた社員が次々に冷遇される事例を見てきたからだ。

 2004年の航空自由化に伴い、新規参入企業との競争が激化。だが企業体質は変わらなかった。「国営企業だから倒産や解雇のリスクはない、という甘え」がまん延し、幹部を忖度(そんたく)して動く社員が出世していった。経営陣もころころ変わった。法的整理直前の4月にも、当時のスメート社長が「権力者に『あなたの仕事は終わりだ』と言われた」と暴露し、任期途中で辞任した。

 「政府や軍の影響を受けるままでは、誰がトップでも本当の改革は無理」。だからこそ、裁判所の管理下に置かれる今回の法的整理を前向きに捉えている。実際、法的整理発表後に政府が株式の一部を手放して出資比率50%未満となり「国営企業」ではなくなった。「普通の企業になれば社員が上司の意向をうかがったり、無駄な仕事をしたりすることがなくなるはず」

 新型コロナの感染防止のため3月末から運航停止が続き、パイロット約1400人の大半が自宅待機。男性も給与が4割以上減り、4月から“副業”として会社仲間らと菓子ブランドを立ち上げて通信販売を始め、運航再開を待つ。

 仲間内では、09年に会社更生法適用を申請した日本航空と自社を重ね合わせる人が多く、「JAL(日航)のように再建するのが目標」という。タイ国際航空の法的整理手続きは始まったばかりで、再建の道のりは遠い。形は国営企業ではなくなったが、しがらみを断つのは容易ではない。大規模なリストラが必要だと覚悟もしている。それでも男性は繰り返した。「タイ航空のブランドを守る最後のチャンスだ」 (バンコク川合秀紀)

福岡便、減便や撤退も 大規模リストラ必至

 タイ国際航空は、来年1月にもまとめる再建計画の柱として、路線を見直す方針を示している。7路線ある日本路線のうち、1992年就航のバンコク-福岡便も、減便や撤退が検討されそうだ。

 同社が今月8日に発表した再建方針の概要には、「不採算の路線や将来的に利益が見込めない路線の調整または廃止」を検討すると明記。このほか、機材削減やインターネット販売の強化、給与や福利厚生の見直しを進め、債務の減免や支払い猶予を受ける。再建完了までに5~7年かかるとしている。

 関係者によると、法的整理の発表前、会社は経営改善策として日本路線を7から3~4に減らす案を検討。羽田、成田、関西を除く福岡と中部、新千歳、仙台便は撤退する案も浮上していた。福岡市の支店には3月に閉鎖を通告。その後、法的整理が決まったため一連の案は白紙扱いとなっているようだ。

 2019年12月期まで3年連続最終赤字となり、債務超過寸前。海外に多い債権者の同意を得るには大規模なリストラは不可避だ。タイ駐在の業界関係者は「福岡などの路線は羽田や成田ほどビジネス需要が見込めない不採算路線。撤退の可能性も低くない」とみる。 (バンコク川合秀紀)

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