あえて「普通」選びたい 中原 岳

西日本新聞 オピニオン面 中原 岳

 博多発長崎行きの特急「かもめ」は、進行方向に向かって左の窓側の席をお薦めしたい。車窓に流れゆく有明海の眺めがその理由だ。

 日本一といわれる干満の差で、発車時刻の異なる電車ごとに見え方が変わってくる。晴れた日には青空と穏やかな海原、運が良ければ対岸の福岡県大牟田市付近の工場群や街並みが見える。雲仙・普賢岳は、いつの間にか諫早湾の向こうに雄大な姿を現す。

 海面に網を張ったノリの養殖場や潮干狩りにいそしむ人の姿も時季によっては目に入る。海辺の駅で特急同士が道を譲り合うようにすれ違うのもいとおしい。鉄道マニア、世にいう「鉄ちゃん」の自分にとって至福の時だ。

 沿線の風土を満喫できる「かもめ」の旅は、あと2~3年で終わる。九州新幹線西九州(長崎)ルートが2022年度に暫定開業するからだ。

 同ルートは博多-武雄温泉(81・9キロ)で在来線特急、武雄温泉-長崎(66キロ)で新幹線を乗り継ぐリレー方式となる。博多-長崎の所要時間は最速1時間20分で「かもめ」より約30分短縮される。有明海沿岸の長崎線は暫定開業後も23年間、JR九州が運行を続けるが、肥前鹿島駅以南は普通列車だけになる。

 新幹線が所要時間の短縮だけでなく、沿線の発展に貢献してきたのは確かだ。だが、利点ばかりなのか。

 鉄道・運輸機構によると、武雄温泉-長崎はトンネルが6割を占め、真っ暗な車窓が断続的に続く。

 新幹線の特急料金は通常、在来線より高い。11年の全線開業まで、同じくリレー方式だった鹿児島ルートの料金制度を参考に試算した。在来線区間と新幹線区間の特急料金を足して2割ほど安くした「通し料金」とすると博多-長崎の指定席特急料金は今より1070円高い3010円。これに乗車券が必要となる。

 武雄温泉駅で乗り継ぐ手間も増える。長崎県などは将来、残る新鳥栖-武雄温泉も新幹線を建設し山陽新幹線への直通運行を目指すが、佐賀県は費用負担などを理由に反対しており、先行きは見えない。

 約30分の短縮のために利用者は余分に特急料金を支払い、乗り換えを強いられ、車窓の旅情も楽しめない。中途半端な暫定開業なら「かもめ」が運行を続ける方が良いのではないか、とも思う。

 「かもめ」の全廃後も、私は新幹線ではなく有明海沿いを走る普通列車を選びたい。

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 ▼なかはら・がく 佐賀県江北町生まれ。2013年入社。北九州西支局、長崎総局を経て編集センター。時刻表検定2級。

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