プログラミング教育は「新しい教養」 教える側の発想転換も必要に 

西日本新聞 くらし面 四宮 淳平

「しくみデザイン」代表・中村俊介さんに聞く

 新型コロナウイルスの影響による長期休校が終わり、それぞれの学校は日常を取り戻しつつある。今年4月、非常事態の陰で新たな学習指導要領が小学校に導入された。特徴の一つは、論理的な思考力を養うというプログラミング教育。オンラインによる学習支援や授業が急速に進んだことで、学校現場はプログラミング教育にも取り組みやすくなるのだろうか。プログラミングに詳しい福岡市のベンチャー企業「しくみデザイン」代表取締役の中村俊介さん(44)に聞いた。

 2005年に設立された「しくみデザイン」は、デジタル技術を活用して有名アーティストのライブ演出やテーマパーク、科学館などの体験アトラクションなどを制作する。中村さんは福岡県教育委員会のプログラミング教育推進協議会委員で、小中学校で出前授業を行ったり、教員向けの研修を実践したりしてきた。

 プログラミング教育について中村さんは「会社にいるスーパープログラマーでもプログラミングの全てを理解しているわけではない。学校の先生が無理に理解し、子どもに教える必要はないんですよ」と話す。

 念頭にあるのは福岡県内のある小学校での出来事。出張授業前、プログラミングの使用法を熱心に覚えようとする教員に対して、子どもたちは配布されたタブレット端末を自由に操作しながら動作を学び、休み時間も没頭。教員は結局、子どもたちに使い方を教わっていた。

 中村さんが伝えたいのは「先生は教えるもの」という発想からの転換だ。

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 新たな学習指導要領は子どもたちにプログラミング的思考を求める。論理的思考とも置き換えられるが、ここにも“落とし穴”があると中村さんは指摘する。

 算数の解き方などの「フローチャート」(流れ図)をノートに書かせる授業も、養われるのはあくまで算数での論理的な思考力。その応用だけで国語や理科の問題が解けないのと同様に「プログラミングを実際に使いこなす中でしかプログラミング的な思考は育たない」と訴える。

 ただ、専用のプログラミング言語を用いて、授業中に子どもたちが何らかのプログラムを作り上げるのは至難の業だ。そこで、同社が17年から無料提供しているアプリ「スプリンギン」を使ってほしいという。

 既にダウンロード数は約10万3千件。文字列を使う必要は一切なく、アイコン(記号)を選んでいくだけで、描いた絵を動かすことができる。音声や音楽も入れられ、組み合わせ次第でテレビゲームなどさまざまな作品を生み出せる。

 この機能を使い、都内の私立小では昨年、2年生が1人ずつゲームを制作。出来上がった作品を来場者が楽しめる「ゲームセンター」を教室に出現させ、ほかの児童向けの招待状もこのアプリで作ったという。

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 みんなが将来、プログラマーになるわけではないのに、なぜ今、プログラミング教育か。そんな疑問にも中村さんは即答する。

 「体育で水泳を学ぶ子どもが全て水泳選手にはなりませんよね」。一方でスマートフォンが普及し、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)が発達していく中、デジタル機器を使わない生活は考えられなくなった。

 「リベラルアーツ(教養)の一つなんですよ。紙と鉛筆を使ってもいいですが、デジタルだと別の方法で記録や表現、思考ができる。いろんな手法を知った上で、それぞれの場面で選択すればいい」

 技術は進歩しているにもかかわらずデジタル機器を使わずに、プログラミングの仕組みを理解させる機会のない学校の方にむしろ違和感を抱いてきたという。

 導入初年度を襲ったコロナ禍。休校の長期化に伴って学校現場は遠隔授業や動画配信の必要性に迫られ、オンラインによる学習支援に次々と乗り出している。この状況がさらに進めば、各教科でプログラミングを活用する授業が増えることも考えられる。

 中村さんは言う。「学習ツールとしてプログラミングを使う。コロナ禍はそれが浸透していくためのきっかけと捉えることもできる。一方で旧態依然とした教育の姿に戻ろうとする力も働いている。今はその分かれ目でしょう」

(四宮淳平)

【プログラミング教育】情報を活用する能力などの育成を目的に小学校で本年度から必修となった。パソコンでの文字入力などの基本的な操作や、コンピューターに意図した処理をさせるため必要となる論理的な思考力を身に付けさせる。目指しているのは物事を考えるプロセスを踏まえ、結果にたどり着く思考力の育成。小学校で実施する教科の指定はなく、学習指導要領は例として、5年算数の図形や6年理科の物質・エネルギー、総合的な学習の時間を挙げている。モデル実践校では国語や図工などでも活用している。

 

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