「病床はパンク寸前」医療崩壊迫った首都 総力戦でしのいだ“第1波”

西日本新聞 総合面 一ノ宮 史成 鶴 加寿子

検証コロナ第一波

 「感染爆発 重大局面」と大書されたボードを掲げ、小池百合子東京都知事はテレビカメラを正面から見据え、同じ危惧を繰り返した。「『医療崩壊』が起こりかねない」-。

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の全乗客乗員の下船が完了して3週間余りたった3月25日夜、都庁での緊急記者会見。前日まで1日10人台だった新型コロナウイルスの都内の新規感染者が一気に41人となり、明らかな異変を告げていた。都医師会の角田徹副会長は「患者急増のスピードに、確保できたベッド数が追いついていなかった」。この日を境に病床が慢性的に逼迫(ひっぱく)し、欧米のように重症者が治療を受けられないまま命を落とす医療崩壊が、現実味を帯びて語られる局面に入った。

 4月初め、都内南部のある感染症指定医療機関では、陰圧設備を有する約20床が新型コロナ患者で埋まり始め、新規受け入れを断る事態に陥った。無症状や軽症の入院患者が、すぐに退院できないルールが背景にあった。

 厚生労働省が都道府県などに対し、軽症者らをホテルや自宅に移してよいとする基準を明確に示したのは4月2日。都が「宿泊療養」を実行に移したのは、緊急事態宣言が出された7日だった。「移行判断が遅すぎた。もう少しで病床がパンクする瀬戸際だった」(都内の病院で受け入れ調整を担当した職員)

 前後して、永寿総合病院(台東区)など患者と医師、看護師が院内感染し、医療機能が停止するケースも相次いだ。新規感染者数がピークを迎えた4月中旬、PCR検査で陽性判定が出ても自宅で待機せざるを得ない人は、都内だけで約200人に上った。

      ■ 

 医療逼迫には別の要因も絡んだ。

 「新型コロナ対応にリスクを感じた民間病院が、患者受け入れに消極的だった側面もある」と、全日本病院協会副会長を務める自民党の安藤高夫衆院議員(比例東京)。院内感染や風評被害の心配だけではない。コロナ専用病床の整備と、それと引き換えの病床閉鎖、外来や手術の縮小により、協力すればするほど病院経営が傾くジレンマが生じた。

 現実に、同協会など3団体の調査によると、コロナ患者を引き受けた医療機関の8割で4月の医業収支が赤字に転落していた。国は4月以降、診療報酬上乗せなどの支援策を打ち出したものの、遅きに失した感は否めない。

 混乱に満ちた「第1波」を、それでも何とか総力戦でしのいだ日本の医療。専門家会議メンバーの釜萢敏(かまやちさとし)日本医師会常任理事は「医療は余力がなければ危機に対処できない。今回、本当に骨身に染みた」と話す。症状の程度に応じた病院の役割分担など、緒に就いた医療提供体制の再構築を急ぐ必要がある。

 「検査態勢を整え、いかに早く感染拡大の予兆を察知する仕組みをつくるか。それが『第2波』へ向けて今できる最大の備えだ」。釜萢氏の言葉に力がこもった。 (一ノ宮史成、鶴加寿子)

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ