【何をリセットするか】 松田美幸さん

西日本新聞 オピニオン面

◆生活を支え合う経済へ

 新型コロナウイルスの影響で、世界の社会経済システムが大きく揺らぎ、ポスト資本主義の議論が盛んだ。世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長は、来年のダボス会議のテーマに、「グレート・リセット」を掲げた。

 リーマン・ショック後に、社会学者のリチャード・フロリダが書いた本のタイトルも「グレート・リセット」だった。フロリダは、創造力に富んだ人材の移動を促す都市の魅力こそが、新しい経済を生み出すと唱えた。

 今、私たちが直視すべきリセットは、市場主義経済への依存からの脱却ではないか。シュワブ会長は、持続可能でかつレジリエンス(回復力)の高い未来を築くために、医療や教育といった社会サービスを充実させ、人々の幸福を中心とした経済への立て直しが必要だ、と主張する。

 経済学者のカール・ポランニーによれば、経済過程には、(1)市場における交換(2)政府による再分配(3)相互扶助の互酬-という三つの類型がある。持続可能な社会には、この三つのバランスが重要だと考える。市場交換だけでは格差が生まれやすく、政府の再分配政策にも限界がある。

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 持続可能な社会をめざす相互扶助の仕組みの一つに、協同組合方式がある。組合員が協同で出資し、経営し、働き、利用するという経済活動だ。中でも、生活に直結する協同組合は、コロナ危機の中で注目されている。

 外出自粛を余儀なくされた期間中、感染不安や自宅で過ごす時間が長くなったことで、食料品や日用品の宅配の需要が大きく伸びた。その需要を取り込んだ一つは、各地の協同組合だ。

 宅配が便利というだけなら、ネットスーパーは配達日時が選べるし、価格が安いことも多い。一方、協同組合は、取扱商品の安全性や環境への配慮に厳しい基準が設けられており、持続可能性を追求するシステムに利用者が参加できる仕組みともなる。

 カタログで事前注文することで、生産者に負荷がかからず無駄が避けられることや、購入した食品の容器やカタログ紙の高回収率など小さなことの積み重ねが、循環型経済の輪をつないでいく。

 事業領域は、宅配にとどまらず、訪問介護をはじめとする高齢者や障害者の福祉サービス、子育てサポートなど、地域福祉の担い手としての活動にも広がっている。

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 福岡県福津市では、地産地消など循環・共生する地域社会・地域経済の構築を進める一方、災害時を視野に、スーパーマーケットなどと物資の供給協定を結んでいる。中でも、生活協同組合との協定では、食料品や生活物資に加え、被災者への衣類の提供や、ボランティアなどの人的な支援も含まれている。

 当該協同組合の理事長は、「協定がなくても支援に駆けつけるが、協定があることで、防災訓練や防災計画の策定段階から関われる」と語る。4月下旬、生活が困窮している子育て家庭に食品を配布する事業を実施した際は、食品提供だけでなく、組合員の方々が現場に足を運んでくださり、課題を共有したいという思いが伝わった。

 多重債務や生活困窮の方への相談や就労支援、生活資金の貸し付けなど生活再生事業を行い、誰一人取り残さないための社会サービスを標榜(ひょうぼう)している協同組合もある。

 通常国会の終盤に、「協同で出資し、経営し、働く」という働き方の実現を目指す労働者協同組合法案が議員立法で提案された。次の国会で活発な審議が行われ、「持続可能で活力ある地域社会」のための「相互扶助の経済活動」への関心と理解が社会に広がることを期待したい。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、経済産業省産業構造審議会臨時委員。

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