「会社全体が狂っていた」かんぽ不正、局員が語る後悔の念

西日本新聞 宮崎 拓朗

 かんぽ生命保険の不正販売問題が発覚してまもなく1年。長年にわたって詐欺まがいの不正契約を繰り返してきた営業現場の実態が明らかになり、いまだに営業再開の見通しは立っていない。日本郵政グループは不正に関する重点調査を今月末までに終わらせる方針だが、身内に甘い調査結果に終われば、さらなる批判が噴出する恐れもある。

 不正販売の実態を話したい-。3月下旬、指定の待ち合わせ場所に男性が現れた。約30年間、保険営業を担当してきた50代の郵便局員。営業成績は常に上位で「管内優績者」に選ばれたこともある。「不正契約を繰り返すうちに、良心がまひしていった。多くの顧客に取り返しの付かないことをしてしまった」。男性は後悔の念を語った。

 元々はまじめな営業マンだった。顧客宅に足しげく通い、ニーズに合った商品を提案しようと日々努めてきた。昔から詐欺まがいの営業をする局員はいたが、直属の後輩には「変な営業は絶対にするな」と厳しく指導してきたという。

 状況が大きく変わったのは2016年ごろから。長引く低金利の影響で保険料が大幅に値上がりし、かんぽの主力商品である貯蓄型保険は魅力を失った。「加入するメリットがほとんどなくなり、通常の営業方法では契約を取るのが難しくなった」

 一方、会社は営業ノルマを年々引き上げていく。過剰なノルマを達成させるため、営業担当者は勧誘電話の回数から顧客宅の訪問回数まで厳しく管理され、成績が悪いと“恫喝(どうかつ)研修”に強制参加させられた。

 そんな中でも、一部の優績者は高い実績を稼ぎ続けた。不審に思った男性が調べてみると、実態は顧客に不利益を生じさせる乗り換え契約ばかり。当初、男性はこうしたやり方に嫌悪感を抱いていたが、厳しいノルマに追い詰められ、3年ほど前から自身も手を染めるようになる。

 乗り換え契約が全社的にまん延し、危機感を持った会社が抑制を指示すると、次に広まったのが「二重払い」だった。乗り換え契約の際、旧保険の解約をわざと半年以上遅らせることで新規契約を装う手口。顧客に保険料を二重払いさせる極めて悪質な契約だったが、上司は「(旧保険を)1年は解約するな」と率先して指示した。

 顧客をだます契約を繰り返していくうちに、罪悪感は次第に薄れていった。「今日の客はゆるかったから楽勝だったよ」。営業担当者の間ではこうした会話が日常的に交わされていたという。

 報道で不正販売の実態が報じられても、管理部門の幹部たちは「リークした奴(やつ)は絶対に見つけ出す」と口止めに走った。しかし昨年7月、会社が不正を全面的に認めたことで事態は一変する。

 「客にうそを言って二重払いさせたんだろ」。内部調査ではかんぽ生命の社員から厳しく追及され、犯罪者のように扱われた。「上司の指示に従っただけ。かんぽの販売指導役も二重払いを奨励していたじゃないか」。自身が不正販売に関与したのは事実だったが、現場に責任を押しつける会社の対応が許せなかった。

 昨年7月以降は営業自粛で仕事はなく、新型コロナの影響もあって自宅待機が続く。ふと、信頼を裏切ってしまったお客さんたちに直接会って謝罪したいとの思いに駆られるが、会社から顧客との接触を固く禁じられている。

 過去の営業手当の返納を毎月のように求められ、現在の月給は手取りで10万円程度。退職も考えているという男性はこう振り返った。「目先の数字ばかりを追いかけ、会社全体が狂っていた。今後営業が再開したとしても、誰も相手にしてくれないだろう」

 ●調査40万件、漏れた契約も

 日本郵政グループは昨年8月、顧客が不利益を被った疑いがある特定事案約18万3千件(約15万6千人分)の重点調査をスタート。今年2月には、新たに深掘調査として約22万件(約6万人分)を追加した。

 特定事案は、いずれも乗り換えに関する契約。(1)7~9カ月間、新旧の保険料を二重払いした(2)4~6カ月間、無保険状態になった(3)同じ保障内容の保険に乗り換えたのに、保険料が値上がりした-など六つのケースが対象となる。郵政グループは調査をほぼ終えており、約4万2千人の顧客に保険料を返還するなど被害回復措置を取った。

 5月末時点で、法令違反315件(関与局員420人)、社内規定違反3277件(同2207人)を確認。関与した局員やその上司の処分は今後行われるという。

 深掘調査は、(1)過去5年に10件以上の新規契約があり、3割以上が解約などで消滅した「多数契約」(2)65歳以上で月額保険料10万円以上の「多額契約」(3)乗り換えの際に被保険者を変え、新規契約を装う「ヒホガエ」-など五つのケースが対象。多数契約については先行的に調査が進められ、5月末時点で局員77人の法令違反を確認。75人の保険営業資格を剥奪し、2人を厳重注意とした。

 これとは別に、全契約に当たる約3千万件(約1900万人)に書面を郵送する意向調査も実施。約102万通の回答があり、うち3661件で不正の疑いが浮上している。

 特定事案や深掘調査の対象からは外れるものの、不正の疑いがある契約は多数存在する。西日本新聞の調べでは(1)保険料を全額払い終えている保険を途中解約させ、新たな保険に乗り換えさせる(2)子や孫が死亡した際に高齢者が保険金の受取人となっている-などの事案が確認されている。 (宮崎拓朗)

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ