「一斉休校」側近主導で強行 結論ありきの政治アピール

西日本新聞 一面 湯之前 八州

 2月27日昼、安倍晋三首相は官邸の執務室で、萩生田光一文部科学相、藤原誠文科次官と向き合っていた。

 首相は「学校を介し、子どもから高齢者に感染が広がるのを防ぎたい」と一斉休校を持ち出した。藤原氏が「準備期間が短すぎます」と難色を示すと、首相は「混乱は覚悟の上だ」と封じた。萩生田氏は「非正規の母親は仕事を休めない」と疑問を挟んだ。同席していた首相側近の今井尚哉首相補佐官が「救済のための財政措置を考えます」と引き取った。

 2日前。官邸では今井氏の主導で一斉休校が議論された。まだ感染者ゼロの地域も多く、菅義偉官房長官は「やり過ぎだ」と反対した。今井氏らはとりあえず矛を収めたが、秘密裏にシナリオを練った。

 27日の協議に菅氏は呼ばれなかった。「結論ありき」の協議は30分で終わった。同日夜、首相は3月2日からの全国一斉休校を要請すると表明した。

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 そもそも休校は感染防止の科学的根拠に乏しい政治判断だった。

 政府の専門家会議メンバーによると、休校については2月24日の会合で「仮の話」として議論した程度に過ぎなかった。首相自身、3月2日の国会答弁で、休校対象から保育所を外した理由を問われ「今、疫学的判断をするのは困難だ」と言葉を濁している。

 ではなぜ「休校」だったのか。政府関係者は「官邸は北海道の動きをよく見ていた」と証言する。

 当時、政権のコロナ対応は「後手」批判を浴びていた。一方、感染者が急増していた北海道は鈴木直道知事が対策を主導。2月25日に知事が道内一斉休校の独自方針を表明し、ネット世論に激賞されるのを官邸は見逃さなかった。

 民間と違って学校は補償も必要ないし、経済的な打撃も少ない。政権の強い姿勢をアピールできる-。全国一斉休校は、そんな政治的思惑から採用された政策だった。

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 日本小児科学会の理事も務める森内浩幸長崎大教授によると、新型コロナウイルスはインフルエンザと異なり、子ども同士では広がりにくいことは2月下旬にはある程度分かっていた。休校は外出自粛などの対策に比べて流行抑止効果が低いとする調査結果もある。5月に北九州市で起きた学校での感染はむしろ珍しく、集団感染としての規模も小さいという。

 「副作用」は大きい。小児科学会は5月20日、教育施設などの閉鎖が逆に子どもの心身を脅かしているとの見解を発表した。厚生労働省によると、3~4月に全国の児童相談所が対応した児童虐待の件数は前年同期比9%増、九州で5%増となった。

 学校再開後も、多くの教育現場は「児童の3分の2は進度の遅れを取り戻せない」(長崎市の小学校教諭)と苦しむ。だが今月18日の記者会見。首相は「中国からの第1波の流行を抑え込むことができた」と胸を張り、その要因に一斉休校も挙げた。

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 未知のウイルスとの戦いは専門家の見解でさえ二転三転することが珍しくない。手探りが避けられない中で、感染防止と経済社会活動のバランスをどう取るか。再び政治判断を迫られかねないからこそ、効果の検証と率直な反省が必要ではないか-。

 そんな問題意識は政権中枢に届かない。首相は2日、官邸を訪れた柴山昌彦前文科相にこう語ったという。「今後流行しても、もう一斉休校は必要ないね」

(湯之前八州)

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