「デタッチメント 優しい無関心」 謎めく教師、絶望の中に希望を求め

配給会社お薦めの一作~オンラインで見る「Help! The プロジェクト」

 独立系の映画配給会社がコロナ対策で結集し、それぞれ権利を持つ旧作を会社別に「見放題」パックにまとめてインターネットで有料配信する「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。配信13社の方々に自社パックから推薦作品を選んでもらい、見どころを紹介していただいています。

 「デタッチメント 優しい無関心」(トニー・ケイ監督=2011年、米国、97分)

 ★オンリー・ハーツ代表の奥田真平さんから

 【作品】

 原題の「Detachment(デタッチメント)」とは、孤立、無関心、超然、公平といった意味があるようで、なんとなく冷たく暗い感じがしますが、映画の核心でもあり、邦題をどうするか決める際、無視もできません。

 そこで、加えたのが「優しい無関心」という言葉でした。これは、新型コロナウイルスが世界で感染拡大する中、著作「ペスト」で脚光を浴びるフランスの作家、カミュの代表作「異邦人」の最後の部分に出てくる言葉を拝借したものです。「優しい」と「無関心」は一見矛盾する言葉の組み合わせですが、その二つの単語が重なり合う部分の影と光を映し出したのがこの映画とも言えるからです。

 主演は「戦場のピアニスト」でアカデミー主演男優賞に輝いたエイドリアン・ブロディ。彼が演じるのは、高校を数週間ごとに渡り歩く国語の代用教員ヘンリー。有能で公平、穏やかだが毅然(きぜん)とした彼の態度は、すさんだ生徒たちの心を一瞬にしてつかみます。ただ、彼はいつものように彼らと濃密な関係をつくる前に去っていくのです…。

 ヘンリーのもとに、2人の少女が現れます。1人はカラダを売って生きているその日暮らしの少女、乱暴されてけがをしているところをアパートに連れていき治療を施し優しく癒やす。そんな紳士的な男性に初めて接した少女はヘンリーを愛するようになる。

 もう1人は生徒の少女。いじめられ孤立した存在ですが、ヘンリーは彼女の芸術的な才能を認め励まします。少女にとってヘンリーだけが世界との窓口になり、やがて世界そのものになっていく。

 しかし、ヘンリーは2人とどう関係を保てるのか、苦悩します。なぜなのか。他人との、過去との、世界との困難な距離感であがき、もがく、それぞれの魂を描き、絶望の中にかすかだけど確かな希望をきっと見いだしていける、そんな映画です。

 【オンリー・ハーツ】

 1991年創業。翌年、セテラ・インターナショナルと共同配給した、ジョン・セイルズ監督「希望の街」(東京国際映画祭グランプリ受賞)が最初に扱った作品です。

 以来、評論家が評価に困るような新鮮な見方、新鮮な風景を求めて、地域にこだわらずに、新人や個性派の監督の作品を手掛けてきました。そういった中に、ギレルモ・デル・トロやニコラス・ウィンディング・レフンのデビュー作があったり、マイク・リーやヌリ・ビルゲ・ジェイランの日本デビュー作があったりします。

 彼らが評価される頃には、もう次に目移りしてしまう「狩猟系」(?)配給会社です。今回の見放題配信パックも16の国、12の言語という多彩な映画で構成されています。

 【私の映画愛】

 1976年の「タクシードライバー」は衝撃でした。中学生の頃から、いわゆるアメリカン・ニューシネマを見てきた世代です。「俺たちに明日はない」「イージー・ライダー」「明日に向って撃て!」「真夜中のカーボーイ」等々。ともかく、ルールなんてクソくらえで、死に向かって突っ走る青春がかっこよかった。

 「タクシードライバー」でも当然、主人公のトラヴィスは死ぬと思いました。ところがなんと英雄になって生き残った。70年代のもやもやした憂鬱(ゆううつ)の時代は終わったと思いました。マーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロが未来を見せてくれた気がしました、20歳の時です。

「デタッチメント 優しい無関心」より©Detachment,LLC.

 

 ★鑑賞記者の感想

 〈傷つけない、支配しない、愛さない〉。そんな形容詞が付く男だ。どちらかといえば暗く極めて静かで、どこか私欲や私情から離れているところがある。主人公のヘンリーは次から次に学校を渡り歩く代用教員で、どこか謎めいている。

 今度着任した学校は荒れ放題だ。不良生徒が暴力で教師を制圧し、授業が成立しない。生徒間のいじめや暴行が横行する。教師たちは精神安定剤を常用したり、時に生徒に逆ぎれしたり、やめていったりする。生徒、教師双方の悪態はぼうぜんとするほどえぐい。

 ヘンリーが来たからといって事態が改善されるわけではない。「金のために教師をやっているだけ」と自ら言う。ただ、授業では公平公正に生徒に向き合う。生徒の脅しを正面から受けて静かに押し返し、生徒たちを引きつける。時には、ジョージ・オーウェル著「1984年」で書かれた「二重思考」(彼によれば、間違っていると知りながら、うそを信じること)の危うさを生徒に熱く説き始める。

 祖父と母親の下で育ったヘンリーは少年期、祖父と母親との関係に根ざす深い闇に気付き、心に傷を負ったようだ。今もつらい記憶がフラッシュバックする。彼が人間関係で深入りしないのはそんな事情が影響しているのだろう。深入りしないのは自己防衛であり、優しさでもある。

 ところが、ひょんなことから路上生活の売春少女を自宅で保護する。学校でいじめられている芸術家志望の少女の悩みを聞いてやって慕われる。その先で、さまざまな事件が起きて、いつもの距離感を保つ生き方が揺さぶられていく。

 私小説的な映画だ。物語の筋の合間に、舞台裏の暗がりにあるかのような、ヘンリーの語りが織り込まれる。「誰だって何かを抱えて生きている」。生きるということはどういうことなのか、物語で映し出し、言葉で補い問いかける。

 絶望に遭遇する人々の物語と言えるだろう。全編には絶望的な暗さが漂う。時にとんがって痛くて、時にざらざらしてはひりひりするリアルな場面が重なる。そんな渦中にあって、ヘンリーは自身の殻を破って生きる希望を求めていく。(吉田昭一郎)

 ◆オンリー・ハーツ見放題配信パック(「デタッチメント 優しい無関心」など30作品)3カ月1490円(税込み)/寄付込み・6カ月3000円。7月31日まで販売する。

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