隣人優先説いたガンディー ポストコロナとインド独立の父

西日本新聞 文化面

環境に優しく格差是正する 小規模分散型経済の拡大を

 インド独立の父として知られるマハトマ・ガンディーは、鉄道の存在を批判した。彼は著書『真の独立への道-ヒンド・スワラージ』(岩波文庫)の中で、「鉄道で邪悪が広がります」と言っている。この言葉の真意が、コロナ禍で腑(ふ)に落ちた。

 ガンディーは、近代のスピードに懐疑的だった。人々はゆっくり歩くことを忘れ、早く遠くへ行くことに価値を見出(みいだ)した。その結果、農家は高く売れるところに穀物を売るようになり、飢餓が発生した。そして、人の移動とともに「感染症」があっという間に拡大するようになった。

 ガンディーは「よいものはカタツムリのように進むのです」と言い、1930年にはイギリス植民地政府の塩専売制に反対して「塩の行進」を行った。約380キロの道のりをとぼとぼと歩きながら、イギリス支配の不当性を説き、海岸にたどり着くと、海水からできた塩の塊を手にした。これが起爆剤となって、非暴力不服従運動に火が付き、独立への道が開かれた。

 ガンディーは、「隣人の原理」を説いた。近くにいる人との支え合いを重視し、地産地消を推進した。都市住民には近隣の村落から農作物を買う義務がある。生産者にも、消費者にも大切な役割がある。隣人の支援を優先しなければ、世界はバランスを失う。そう論じた。

 森永卓郎は「コロナ禍の今こそ『ガンディーの経済学』が求められるワケ」(マネーポストWEB、5月19日)の中で、ガンディーの「隣人の原理」に注目する。

 新型コロナウイルスが世界中に急激に拡大した背景には、グローバルな人の往来が格段に増えたことがある。資本家たちは、コストの安いところから部材を大量調達し、生産性を上げようとしてきた。そして、大都市一極集中が促進される。製造業は輸出依存に陥り、サービス業はインバウンド需要に過度に依存してきた。その結果、コロナ禍によって世界の大都市にウイルスが拡大し、人の移動が制約されることで、経済的被害が甚大になった。

 大規模な工場を誘致しても、その利益は一部の人に還元されるだけで、労働者の主体性や地域の自律性が失われる。「それよりも近所の人が作った農産物を食べ、近所の人が作った服を着て、近所の人が建てた家に住む」方が、「地域に雇用が生まれ、経済が回りだす」のではないか。

 森永が提唱するのが、「ガンディーの経済学」に基づく「小規模分散型の経済」の拡大である。「具体策としては、農業やエネルギーを小規模分散化する。非選択性の農薬とそれに耐性を持つ遺伝子組み換えの作物を大規模生産するのではなく、安全な農法による農産物の地産地消を進める。太陽光や地熱で作った電力や熱を地域で使う。そうすれば送電ロスもなくなるし、環境に優しく、災害にも強くなる」。格差拡大を是正し、地球環境の破壊を阻止する。グローバル資本主義を見直す。これがポストコロナの世界モデルだと主張する。

 藤井聡は「『パンデミック』はこれから始まる地獄の序章である-大恐慌と世界食糧危機に備えよ」(『新型コロナ19氏の意見』農文協ブックレット)の中で、過度のグローバリズムに警告をならす。これまでグローバリズムの不可逆性を説いていた人たちは、今、一斉に血眼になって外国との往来を規制し、国境を活用している。「こうなれば、カロリーベースで言えば4割程度しか自給できていない我(わ)が国日本は、深刻な食糧危機に直面することになる」。農作物を輸入に頼るのではなく、国内の生産力増強に努める必要がある。

 森永も藤井も、コロナ以前から反緊縮政策を打ち出し、消費税減税を説いていた。グローバル資本主義に対する懐疑や地域社会・コミュニティーの活性化についても見解を共有している。通俗的には、森永は左派に位置づけられ、藤井は保守派に位置づけられるだろうが、もはや左/右の枠組みは本質的意味をもたなくなっている。

 ポストコロナの価値観は、新自由主義の是正でなくてはならない。「隣人の原理」から、新たなヴィジョンを模索するべきである。

(中島岳志 なかじま・たけし=東京工業大教授)

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