「ラスト・プリンセス」 歴史に翻弄される「大韓帝国」最後の皇女

配給会社お薦めの一作~オンラインで見る「Help! The プロジェクト」

 独立系の映画配給会社が新型コロナウイルス対策で結集し、それぞれ権利を持つ旧作を会社別に「見放題」パックにまとめてインターネットで有料配信する「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。配信13社の方々に自社パックから推薦作を選んでもらい、見どころを紹介していただいています。

 「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」(ホ・ジノ監督=2016年、韓国、127分)

 ★ハーク映像事業部マネージャーの金恵玉(キム・ヘオク)さんから

 【作品】

 朝鮮王朝から大韓帝国へと時代が変遷した日本統治時代、大韓帝国の初代皇帝・高宗(コジョン)の娘として生まれ、10代前半で日本へ渡り、故郷への帰還を夢見ながら激動の時代を生き抜いた実在の人物、徳恵翁主(トッケオンジュ=1912~89)の壮絶な人生を描いた物語です。

 「八月のクリスマス」「四月の雪」など恋愛映画の名手と呼ばれる名匠ホ・ジノ監督が、徳恵翁主の波乱の人生に大きな衝撃を受け、脚本に4年間も費やして完成させた意欲作です。韓国では、観客動員560万人のヒットを打ち立てました。

 歴史に翻弄(ほんろう)される徳恵翁主を、現在Netflixで配信中の大人気韓国ドラマ「愛の不時着」のヒロイン、ユン・セリ役のソン・イェジンが演じています。「愛の不時着」では大胆でコミカルな演技が印象的ですが、政治的事情や陰謀に阻まれながらも自分の愛を貫こうとする姿は、「ラスト・プリンセス」の徳恵翁主の「芯の強さ」に共通しています。

 私は日本で生まれた在日韓国人ですが、恥ずかしながら、この映画を見るまで大韓帝国の存在を知りませんでしたし、大韓帝国の皇女が日本で暮らしていた事実も知りませんでした。時代の流れにのみ込まれ、抗えぬ運命の下で家族と離れ海外で暮らすしかなかった一人の女性の物語に圧倒されました。

 学生の頃、ほとんど見る機会がなかった韓国の映画やテレビドラマが身近に見ることができるようになってとてもうれしく思っています。このようなエンターテインメント作品が日韓相互理解の一助になれば、と願っています。

 【ハーク】

 2000年に設立されたハークは、会社設立時に深く関わってくれた香港の映画監督ツイ・ハークの名前を社名としました。エンターテインメントをキーワードにドキュメンタリー、アート作品、娯楽などアジア映画を中心に世界中の「面白い」を皆様へお届けしたいと考えています。

 ホ・ジノ監督の最新作「世宗大王 星を追う者たち」は、実在の人物である李氏朝鮮第4代王・世宗と天才科学者チャン・ヨンシルの重厚なドラマを描いています。9月4日よりシネマート新宿(東京)をはじめ、全国で順次公開されます。

 【私の映画愛】

 私が映画に興味を持ったのは、幼い頃に両親と一緒に映画館で見たハリウッド映画が始まりでした。しかし、高校生の頃、ミニシアターでリバイバル上映していたイタリア映画「ひまわり」を見て衝撃を受けたことを今も覚えています。劇中のソフィア・ローレンが演じた女性の強さに心を打たれました。それまで見ていたハリウッド映画とは全く違った映画でした。

 その後、ミニシアターの全盛期に世界各国の名作を見ることができました。映画は私の行ったことのない世界や知らない文化に触れさせてくれ、教えてくれ、もっと深く知りたいという探求心を与えてくれました。

 スクリーンに映る人間のドラマを通して、そういう気持ちにさせてくれるのが映画のすごいところだと思います。国境を越えて共感し、心を揺さぶられ、涙したり、笑ったり。いつの間にか知らない誰かとつながっているのだと思うと、とても不思議な気持ちになります。

 日本は世界の中でも多様な国の映画を見ることができる数少ない国の一つです。この文化を途絶えさせないよう、少しでも力になりたいと思い、今の仕事に励んでいます。

「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」より©2016 DCG PLUS & LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

 

 ★鑑賞記者の感想

 主人公の徳恵翁主は、日韓併合(1910年)の2年後、大韓帝国の初代皇帝・高宗の娘として生まれた実在の人物だ。7歳の時、高宗は死去。当時、日本側勢力の毒殺説も持ち上がった。

 「内鮮一体」の同化政策の下、10代前半で日本に渡るが、精神的に不安定になる。実母死去後、さらに状態は悪化した。19歳で旧対馬藩主の家系の宋武志と結婚し女の子を出産する。戦後、韓国初代大統領の李承晩が旧王家を警戒して帰国を許さず、日本で長く精神科入院生活を送った。韓国人作家カン・ヒボンは映画紹介資料への寄稿で、「人質」として半生を生きた徳恵翁主の苦悩を記している。

 映画は、こうした「大韓帝国最後の皇女」の悲劇的な人生に、日本統治下の独立運動の動きを重ね、徳恵翁主らが運動拠点の上海臨時政府への密航・亡命を試みる劇的なフィクションに仕上げている。

 徳恵翁主役のソン・イェジンが迫真の演技をしている。脚色だろうが、何かの大工場で朝鮮人労働者たちを前に演説を求められ、「天皇陛下の壮大な国家建設に尽くせる」とお仕着せの日本語の文を読み上げた後、母国語で「希望を捨てないで」と励ます場面であったり、亡命途上に銃撃されながら逃走する絶体絶命の場面であったり、精神を病んで長期入院した後、支援者と再会する場面であったり、折々で心を揺さぶられ、感涙に導かれる。

 この演技の熱量は、彼女の力量だけでなく、国民的に共有するアイデンティティーと根っこに宿す強い感情を背景に押し出されているようにも感じる。ドラマの仕立て方からも、その当たりの機微がうかがえる。

 政府間の日韓関係は今、悪化している。戦時下の慰安婦や徴用工の問題、日本の輸出管理強化に対する韓国のWTO提訴など、こじれた懸案が数多い。敵対するだけではなく、あらためて植民地統治下の過ちを直視し相手の立場に立って考えないようなら、解決の糸口は決して見えてこないのではないか。

 日韓の史実を冷静にたぐると、韓国の人たちが日本に対する民族的な義憤を根に持って当たり前だろうとあらためて思う。国際関係が難しくなればなるほど、お互いの史実とそれに伴う思いを正確に共有した上で物事を見ていく必要があるのだろう。

 日本は多様な立場を伝える映画をきちんと上映できる国でありたいし、そうした映画を掘り起こして見せてくれる独立系配給会社の方々の仕事のありがたさを思う。(吉田昭一郎)

 ◆ハーク見放題配信パック(「ラストプリンセス 大韓帝国最後の皇女」など15作品)3カ月2480円(税込み)/寄付込み・6カ月5000円。8月21日まで販売する。

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