新ダム洪水対策 下流域住民の安全徹底を

西日本新聞 オピニオン面

 佐賀県や長崎県できのう、大雨に伴う避難情報が相次いで出されるなど、今季の梅雨も本格化してきた。九州全域で十分な警戒が必要だ。

 政府は今月、豪雨に対応する新たなダム洪水対策の運用を始めた。既存ダムのうち治水用だけでなく、利水用(水道、農工業、発電)にも貯水して、放流量を調整する。下流域の増水や氾濫の抑制を図るためだ。

 大きな費用をかけずに可能な減災・防災対策として評価したい。ただ初の取り組みだけに現場の運用には細心の注意が必要だ。何より下流域住民の安全を最優先せねばならない。

 全国にあるダムは、複数の用途を兼ねた多目的用も含め約1500に上る。このうち洪水対策の治水に使われているのは4割にすぎない。

 昨秋の台風19号などの教訓から、残り6割のダムの治水活用について政府は自治体や利水団体、ダム管理者と協議し、1級河川水系の利水用ダム620で新たな対策に合意した。これにより、ダム全体の洪水調節容量は91億立方メートルに倍増した。

 九州最大の河川である筑後川水系のダム容量は1億5200万立方メートルで1・5倍になった。筑後川は2017年7月の九州豪雨の際、福岡県久留米市田主丸町の観測所で氾濫危険水位を2メートル近くも超えた。今後は、そうした危機の回避につながるよう期待したい。

 新たな対策は、豪雨が予想される3日前からダム内にある水を事前放流し、空き容量を増やしておくのが原則だ。

 豪雨本番での課題は多い。まず、どのタイミングで雨水を放流するのか-。ダムの規模などによってケースは分かれる。短時間で満水に近づき、直ちに放流する場合もある。逆に豪雨がやむまで貯水可能なダムでは、晴れ間が広がる時間帯に放流することもある。

 下流域住民の安全のために、正確で迅速な情報伝達が極めて重要だ。放水を知らせるサイレンや家庭用防災無線が主な伝達手段となる。再点検に加え、まずは新たなダム洪水対策の周知徹底が欠かせない。

 18年の西日本豪雨で、愛媛県にある多目的ダムが満水で緊急放流され、下流域が浸水し住民が死亡した。激しい雨音でサイレンが聞こえなかったという証言もある。通常の降雨では考えられない事態が起こり得ることを示す教訓だ。

 一方、大雨予報が外れた場合の水不足も懸念される。自治体相互で水を融通し合う方策が求められる。関係団体で協議を深め、事後の検証作業も必要だ。

 住民の防災意識向上を含む総合的な水害対策につなげたい。

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