睡眠不足、仕事できない…父親がワンオペ育児して分かったこと

西日本新聞 くらし面 姫野 一陽

 熊本市在住の作家、海猫沢めろんさん(45)が今月、子どもとの日々をユーモアたっぷりにつづったエッセー本「パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵」(写真、講談社、1320円)を刊行した。子育てや家事を一人でこなす「ワンオペ育児」を半年ほど体験。仕事も睡眠もままならず「このままだと子どもか自分が死ぬ」と思い詰めた。「育児に悩む親が苦しい今を乗り切れるような一冊になればうれしい」と期待を込める。

 自宅を訪れると、壁には息子(9)の絵がいくつも飾られていた。「子どもができるとか、こんな本を書くとか、僕の人生でそんな可能性はないと思っていた」とほほ笑む。

 「パパいや~」では、習い事は何をいつ始めるか、動画投稿サイトユーチューブ」とどう付き合うか、長期休暇をどう乗り切るかなど、17項目で持論を展開する。女性読者からの相談コーナーもあり、「責任感がない夫」については「まず最低3日くらいワンオペしてもらいましょう」と回答する。

 息子が1歳半くらいのころ、妻が体調を崩し、父子だけで生活することになった。保育所の送り迎えも家事も全て一人ですることに。睡眠不足で仕事ができない。小説家としての自分と、父親としての自分に引き裂かれる。「敗北感と挫折感でつらかった。今もつらい。全国のお父さんもつらいと思います」

 一方で「個人としていろんな自由があるのに、お母さんだから、って記号みたいなものを押しつけられ、自由が全部なくなっちゃう」と母親たちの気持ちも見えた気がした。

 そんな「地獄のような育児生活」も、子どもの成長とともに和らいでいく。3歳になれば言葉を話すようになり、6歳になれば小学生に。余裕ができれば育児の楽しさも分かるようになった。これから育児をする人には「まずは3年という気分で乗り切ってほしい」と心から願う。

 育児は愛情などふわっとしたイメージで語られがちだが「人類学的なことが面白い」。人間がどうやって言葉を獲得していくのか、物語がどう発生するのか。「そんな過程を間近で見られる」からだ。1歳から年1回、息子へのインタビューを続けている。対話の内容から好みや性格、世界観の変化を見てきた。「子どもがいる人に許された面白い遊び」と形容する。

 日本は公平性が担保されている前提の世の中なのに「育児においてはおかしい」という疑問がぬぐえない。父親が育児をすると褒められるのは、母親は育児をするものという意識の裏返し。例えば日本の昔話でおじいさんが川へ洗濯に行くことはないが、米国には父親が専業主夫という設定のアニメがある。「環境が考え方に与える影響は大きい。家庭内のフェアネス(公平性)について一度考えてみた方がいいですよね」

 タイトルの「パパいや」には、記号的存在としての「父親」は嫌だ、という思いを込めた。ただ「パパが嫌」とひとことで言っても、人によっていろんな「嫌」がある。人に言えない場合もある。母親も同じだ。「人間って分かる範囲でしか分からない。分かることを増やすには体験するしかない」。軽いノリでもいい。ワンオペを経験することで新たな発見が生まれるのでは、と思っている。 (姫野一陽)

 ▼うみねこざわ・めろん 1975年、大阪市生まれ。デザイナー、ホスト、放送作家などを経て2004年「左巻キ式ラストリゾート」でデビュー。小説「キッズファイヤー・ドットコム」で熊日文学賞受賞。

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