ぬれ煎餅で守る鉄路 岩本誠也

西日本新聞 オピニオン面 岩本 誠也

 関東の最東端にある千葉県銚子市。JR銚子駅から太平洋に突き出た犬吠埼(いぬぼうざき)方面へ6・4キロの線路が延びる。「奇跡のぬれ煎餅」で鉄道ファンに知られる銚子電気鉄道だ。

 奇跡が起きたのは2006年のことだ。

 乗客が減り厳しい経営が続く中で、当時の社長による横領事件が発覚、古くなった鉄道施設の改修や車両点検の費用を準備できなくなった。改修や点検を期限内に終えなければ電車は走らせられない。

 資金繰りに窮した経理担当者が「ぬれ煎餅を買ってください。電車修理代を稼がなくちゃいけないんです」とホームページに書き込んだ。これが鉄道ファンに広まり、副業のぬれ煎餅に注文が殺到した。テレビでも取り上げられ、煎餅は売り上げをさらに伸ばし、急場をしのぐことができたという。

 「煎餅を売って電車を走らせている」とからかわれる銚電。年間収入約5億円の8割は煎餅など副業の売り上げで、赤字の鉄道を支える。

 経営難を逆手に取って名付けたスナック菓子「まずい棒」も人気商品になった。東日本大震災など廃線のピンチを何度も乗り越えてきた。だが、今回は少し勝手が違う。

 新型コロナウイルスの感染拡大で通勤・通学客が消え、緊急事態宣言が全面解除されても観光客の戻りは鈍い。

 「はっきりしているのは、何もしなければ年内に資金がショートするということ」。顧問税理士になった縁で12年から社長を務める竹本勝紀さん(58)が言う。

 そこに悲愴(ひそう)感はない。鉄道を残すために何ができるかを常に考え、現在はオンラインショップの充実に取り組む。

 倉庫に眠っていた分割民営化前の国鉄との連絡切符を商品化したり、眼鏡の上から掛けられるサングラスとキーホルダーなどを「お先真っ暗セット」として売り出したり。地元とのコラボ商品や自虐的なネーミングの商品を増やし、支援を呼び掛ける。

 コロナ禍で借金が9千万円増えた。先は見通せない。そんな状況でも竹本さんは「鉄道と地域は表裏一体。駅や線路がなくなれば地域の衰退が早まる。絶対に諦めず挑戦を続けるだけ」と前向きだ。

 地方の鉄道はどこも経営が厳しい。2000年度以降、全国で44路線、1042キロが廃止になった。九州豪雨で不通が続くJR九州の日田彦山線の一部区間が近く、これに加わる見通しだ。

 鉄道はそれぞれ事情が異なり、銚電の取り組みが万能とは思わない。ただ、赤字でも諦めない姿勢はぜひ参考にしてほしい。 (論説委員)

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