山あり谷あり… 復興の歩み、日記と共に 熟年夫婦の阿蘇暮らし

西日本新聞 熊本版 佐藤 倫之

 2016年の熊本地震で寸断され、今年10月の復旧を待つ国道57号。工事が進む熊本県南阿蘇村立野地区の東端、不通区間の手前から山手に入ると別荘地が広がる。高台の一画で暮らす櫛部孝二さん(76)、教子さん(64)夫妻は、この地で被災。地震後、かつての25戸は半減し、隣接する空き地の草刈りにも追われるが、どこか悠々と楽しげ。山あり谷ありの第二の人生を、孝二さんは日記につづっていた。

被災し地域と絆も

 孝二さんは兵庫県出身。製薬会社に入社し、九州勤務時代、熊本市出身の教子さんと出会った。奈良県に自宅を構え、子ども2人を育てた。定年後、阿蘇観光に訪れた際、分譲地に立ち寄り、熟年人生のすみかに選んだ。

 何より気に入ったのは眺望。窓の向こうには烏帽子岳、杵島岳などが連なる。奈良に自宅を残し、夫妻は13年前から一年の大半を阿蘇で過ごし、山歩きや温泉、ガーデニングを楽しむ。

 本震時、夫妻は1階で就寝中、壁が倒れかかってきたが、布団がクッションになり難を逃れた。日記にはこう記されている。

 <4月16日(土)晴れ 寝ていたら内壁がお母さん(妻)の方から落ちた。洗濯機の中で回されている感じ。めがね、免許証も分からず、パジャマ姿で外に。近所の5世帯と一緒に、近くのコンビニ店前の駐車場へ。車中泊始まる>

 <17日 大勢の人から電話が来るが、つながらない。自衛隊ヘリに向かって全員でタオルを振ったら1機降りてきた。大分の知人が食料と飲み物を持ってきてくれた。皆が大いに喜び助かった>

 <18日 ケータイ充電器購入。満願寺温泉(南小国町)に入れてもらった上、食事までお世話に>

 <19日 植木インターから高速道。何とか無事、奈良に帰った>

 5月中旬、阿蘇に戻り、避難所や仮設住宅で暮らしながら、片付けや被災手続き。地震保険を活用し、半壊した別荘を再建したのはその2年後だった。

   ☆    ☆

 別荘地や温泉宿がある一帯は、大規模斜面崩落があった山の反対側。そのことを後に知った教子さんは「腰を抜かした」。それでも夫妻が、ここで暮らしを続ける最大の理由は「人と自然の魅力」だという。

 それぞれにご近所、ランチ、ゴルフ、温泉仲間が増え「共につらい被災体験があるからこそ、絆は深まった」と口をそろえる。

 取材に訪れた日、村職員の案内で空き物件を見て回る女性(58)がいた。甲佐町で被災し、町内の災害公営住宅で暮らす。震災時、大学生だった子どもがUターン就職。家族5人の新たな暮らしを考え、移住先を探しているという。国道57号の再開に期待もある。

 ここでの生活は? 大雨の時はどこに避難? 夏冬は? 夫妻は質問攻めに遭い、暮らしぶりを伝えながらも、複数候補地の検討を勧めた。

 近くには最近、子育て世代も転居。新たなコミュニティーの胎動もある。

   ☆    ☆

 最近の日記を見せてもらうと、愛犬シェリーとの散歩、夫婦げんかの反省、庭のバラが咲いた日々などがつづられていた。

 たわいもない日常は、復興の足音でもある。国道の復活は、終章を迎えつつある夫妻の人生の、新たなページをめくろうとしているのかもしれない。

 「一致団結しなくても、気の合う人とのんきに」。阿蘇の自然に囲まれて暮らす夫妻は、そんなことを話しながら、被災地の再興を願っている。 (佐藤倫之)

   ◇     ◇

 ◆国道57号 熊本―阿蘇―大分を結ぶ幹線道路。熊本地震による大規模斜面崩落に伴い、立野峡谷を抜ける区間が寸断された。不通区間は約2キロ。崩落斜面の復旧工事はほぼ終わり、道路と鉄道の復旧工事が本格化。国道沿いのJR豊肥線は8月8日に全線再開予定。国道は北側迂回ルートと併せて10月開通の予定。

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