【IT、訪日客、国際化】 出口治明さん

西日本新聞 オピニオン面

◆コロナ後九州を考える

 新型コロナウイルス禍後の「新常態」(ニューノーマル)は、日本の、そして九州の経済、社会にどのような影響を及ぼすのだろうか。

 ウイルス蔓延(まんえん)を受けて、僕の勤務するAPUでは、上期の授業は全てオンラインで行っている。当初、先生方の中には、「授業は真剣勝負であって対面でないと効果が上がらない」などと難色を示す向きもあったが、ふたを開けてみると、そうした先生方の方がオンライン授業にはまって、熱心に取り組んでいる。

 オンライン授業を始めて2カ月近く経(た)つが、さしたるトラブルもなく順調に授業が行われている。僕も、数回やってみたが、思ったよりスムーズに流れ、質疑応答面でも何の問題も生じなかったので拍子抜けしたほど。学生の評判も上々だ。

 このように、この数カ月で社会のIT(情報技術)リテラシーは格段に向上したように思える。ということは、ニューノーマルでは、ITをいかに自由に使いこなせるかが、大きなカギになることを示唆する。市民、社会のITリテラシーの高まりにうまくフィットした商品やサービスの開発に、いち早く取り組んだ企業と、旧態依然とした企業との間に大きな格差が生じかねないということだ。

    ◆   ◆ 

 第2は訪日外国人観光(インバウンド)をどう考えるかだ。日本も九州もインバウンドを地域おこしの中心として位置付け、懸命に取り組んできた。それが、ほぼゼロに戻った状況だ。世界の航空大手各社によれば、国境を越えた人々の移動が元に戻るには2~3年を要するという。目先のことを考えれば、インバウンドにはさほど多くを期待できないだろう。

 しかし、その先を考えるとどうか。人間は旅する動物であり、土地に縛り付けられることが何よりも嫌いな動物でもある。ステイホームの反動で、思い切り広い世界に飛び出したいというエネルギーがマグマのように蓄積されているのではないか。

 中長期的に見れば必ず元に戻り、さらに上振れしていくと考える。それに、成熟した日本では、インバウンド以外に、実効性のある地域おこしの方策があるのだろうか。

 僕は、「接線思考」と呼んでいるが、人間は大事件が起こるとそのままの状態が永遠に続くような錯覚に陥りやすい。マスクと手洗いとソーシャルディスタンスが、これから常態になる、という人がいるが本当だろうか。ワクチンと薬が開発されれば、コロナはインフルエンザと同じになるのではないか。

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 第3は、グローバリゼーション。世界銀行は8日、今年の経済成長率をマイナス5・2%、戦後最悪の落ち込みとの見通しを公表した。戦後最悪の落ち込みであれば、株価は1万円近くに暴落してもおかしくはない。それなのに、なぜ2万円台をキープしているのだろうか。

 株価が安定しているので、企業決算も投資信託などを購入している市民も、パニックに陥らずに対応できている。世界の中央銀行が緊密に連携・協力して資金を潤沢に市場に供給しているおかげだ。コロナ対策が各国で立てられるのも、感染状況やロックダウンのデータが公開・交換されているからに他ならない。

 トランプ大統領の中国や国際機関への攻撃は、秋の大統領選挙を踏まえた策略の色彩が濃厚だ。それを見て、グローバリゼーションはもう終わりだなどと早合点してはならない。何事にもダークサイドがあるのは、映画「スター・ウォーズ」の教える通りである。ウイルス蔓延というダークサイドだけを見て、グローバリゼーションは終わりだなどという言説は当たらない。

 【略歴】1948年、三重県生まれ。72年、京大法卒、日本生命入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長など歴任。2008年、ライフネット生命を開業。12年上場。社長、会長を歴任。18年から現職。著書に「哲学と宗教全史」など。

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