通信傍受の経緯明らかに 看護師刺傷事件 【工藤会トップ裁判】

西日本新聞 社会面

〈マンスリー報告 6月〉「別件の証拠」弁護側反発

 特定危険指定暴力団工藤会トップで総裁の野村悟被告(73)とナンバー2の会長田上不美夫被告(64)の公判は、女性看護師刺傷事件(2013年1月)の証人尋問を終えた。検察側は通信傍受法に基づき組幹部2人=組織犯罪処罰法違反罪などで公判中=の携帯電話の通話を傍受した経緯について説明し、弁護側は「別事件の捜査で得た証拠だ」と反発。検察側が主張する野村被告の“動機”の核心に迫る証言はなかった。

捜査の切り札

 ≪組幹部2人の携帯電話の通信傍受は13年1月中旬~2月中旬に行った。元福岡県警警部銃撃事件(12年4月)で行き詰まる捜査を打開する目的だったが、傍受記録は看護師事件でも使われた≫

 元特別捜査班長(1) 元警部事件で、発生前後に現場周辺で組員の携帯電話が使われたことを確認した。複数の組員の関与が疑われたが、拳銃や指紋などの証拠はなく、聞き込みでも情報が得られなかった。

 警察内部では「(組員らの)通話を傍受したらいいのではないか」という話が出た。指示や謀議をしている可能性があり、組幹部2人を傍受対象にすれば指示系統が分かると考えた。

 通信傍受は東京で行われ、私は福岡で指揮班として裏付けに当たった。元警部事件に関する通話はなく、看護師事件に関係すると思われる内容があった。13年7月以降、裁判所に傍受記録の聴取と複製の許可を請求し、認められた。

 弁護側 (元警部事件と関係のない)看護師事件について、東京で傍受する捜査員に「気をつけて聞くように」と指示したか。

 元班長(1) 混乱すると思ったのでしていない。

 弁護側 (傍受内容に関する)メモの作成は必要最小限にするよう求められている。東京の捜査員から通話内容の裏取りを依頼され、翌日にメモを廃棄することもあったのでは。

 元班長(1) すぐに裏取りし、その日に捨てた。

「紳士的な人」

 ≪12年8月、野村被告は看護師が勤務する美容形成外科クリニックで下腹部手術などを受けたという。検察側は手術結果に不満を訴え、看護師の態度に怒りを募らせて襲撃を決意したと主張するが-≫

 看護師 手術直後から患部の異常を訴えた。私が休みの時に来院し、憤慨していたと同僚の看護師から聞いた。私が野村被告に電話し、原因と考えられることを説明したら納得したようだった。

 同年10月には野村被告と担当医師も交えて話し合った。責められると構えていたが、穏やかな雰囲気で拍子抜けした。野村被告は「手術は自分が決めたことなので、この件は終わりにする。脱毛は最後まであなた(看護師)が担当してほしい」と言った。

 弁護側 野村被告と特別わだかまりがあったわけではないのか。

 看護師 ないと理解した。当時、野村被告にいろいろ嫌なことが重なっての話と受け止めた。

 弁護側 野村被告があなたに対して声を荒らげたり怖い顔をしたりしたことはあるか。

 看護師 ない。すごく心配性で繊細な人という印象だった。(言葉遣いや態度は)紳士的と感じた。

 検察側 事件や犯人に対する気持ちは。

 看護師 一般人の私がなぜ事件に遭うのかがすごく疑問。真相を具体的に知りたい。事件に関わった人は罪を償ってほしい。

 医師 手術は問題なく終わり、同年10月の診察でも治療効果の持続はあった。野村被告からは「これでええんか。失敗と違うんか」と聞かれた。威圧的な感じはなく「野村さんが満足していなければ成功とは言えない」と伝えると、納得したようだった。

語られた不満

 ≪「あの人は刺されても仕方ない」。事件後、野村被告は看護師の元同僚にそう語ったという。検察側は、野村被告が非公表の被害者名を知っていた可能性を指摘し、事件関与をうかがわせる証言だと主張。弁護側は証言の変遷を突き、信用性を疑問視した≫

 看護師の元同僚 同年10月、野村被告が来院して手術内容に不満を訴えた。「看護師が(脱毛レーザーを)わざと強く当てたのでは」「ああいう人になったらいかんよ」と話した。

 事件2日後、野村被告から「(看護師は)どうした」と尋ねられた。「事件に遭った」と伝えると、「刺されたんか」「あの人は刺されても仕方ない」と言われた。刺された事実を被告が知っていたことに驚き、頭が真っ白になった。もしかしたら、事件に関わっているのでは、と思った。

 弁護側 13年2月に作成した供述調書には、野村被告が「仕方ない」と言った記載がない。

 元同僚 最初はどこまで(警察官に)話していいか分からず、聞かれたことにだけ答えた。

 弁護側 同年6月の調書には記載がある。警察官から「野村被告が『やられて当然』というニュアンスのことを話さなかったか」と聞かれたことは。

 元同僚 覚えていない。

 元警察官 事件発生時、博多署の当直主任として報道向け広報文を作成し、取材対応もした。被害者は「博多区居住、看護師A女、45歳」と匿名で発表した。実名を尋ねる質問もなかったし、こちらから口頭でも伝えていない。

動機は語らず

 ≪公判では現場指示役とされる組幹部(1)=組織犯罪処罰法違反罪などで公判中=や実行犯の組幹部(2)=懲役15年が確定=も出廷。事件の動機については証言を拒む一方、被害者への謝罪の言葉を口にした≫

 組幹部(1) 私が要になってこの事件を起こした。12年11月ごろ、組幹部(3)とともにクリニックを訪れ、被害者の顔を確認した。組幹部(3)に被害者の帰宅時間や通勤手段を調べてもらい、同年12月には顔を切ることなどが決まった。

 その後、組員らに「ちょっと手伝ってほしいことがある」と依頼した。13年1月24、25日にも襲撃を予定したが、被害者を確認できずに同月28日に実行した。凶器のナイフは私がホームセンターで購入した。

 裁判官 動機を説明できるか。

 組幹部(1) (自身が公判中のため)話すことはない。

 裁判官 被害者を個人的に知っているということはないか。

 組幹部(1) ありません。

 裁判官 襲撃する理由がないのでは。

 組幹部(1) 答えることはない。

 組幹部(2) 12年冬、組幹部(1)から「仕事がある。相手は女性看護師。殺さなくていい。顔を切り、尻を刺す」と指示された。襲撃した際、看護師は「なんで私がこんなことされないけんの」と言っていた。

 検察側 事件後、組織内での立場に変化は。

 組幹部(2) 13年10月ごろ、序列が上がった。組幹部(1)も同時期に上がったと思う。

 弁護側 なぜ左側頭部を切り付けたのか。

 組幹部(2) 女性だしかわいそうと思い、なるべく傷が目立たない部分を選んだ。本当に申し訳ない気持ちだ。 (工藤会トップ裁判取材班)

【看護師刺傷事件】2013年1月28日、福岡市博多区の路上で女性看護師=事件当時(45)=が刃物で側頭部などを刺され、約3週間のけがを負った。看護師は北九州市内のクリニックに勤務し、野村悟被告の施術を担当した。福岡県警は14年10月、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)の疑いで野村、田上不美夫両被告ら計16人を逮捕。14人が起訴され、実行犯や送迎役らの実刑判決が確定した。

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