香港の安全法制 一国二制度を崩壊させる

西日本新聞 オピニオン面

 香港の繁栄を支えてきた高度な自治を踏みにじり、その司法の独立も脅かす法律だ。国際公約である「一国二制度」を崩壊させかねない中国の強権統治の拡大は断じて許されない。

 中国の国会に当たる全国人民代表大会の常務委員会が「香港国家安全維持法」を成立させ、同法は即日施行された。

 中国政府も対象にした抗議運動が続く香港を完全に統制し、その活動を封じ込める。習近平指導部の狙いは明らかだ。

 施行された法律は国家分裂や政権転覆など4類型を処罰対象とし、最高刑は終身刑である。さらに中国の治安当局が香港に出先機関を設け、事件の審理は香港政府トップの行政長官が指名した裁判官が担うとした。

 処罰対象となる犯罪行為の定義すら明確ではなく、法律全体の解釈権は中国当局が握る。事案によっては中国本土に連行されて裁かれかねない。中国はこんな法制で直接香港に介入し、恣意(しい)的運用が幅を利かせるようなことは厳に慎むべきだ。

 統治する側から見た安全を優先するあまり、市民が強権支配におびえるような社会は不健全だ。香港の街頭で自由に意思を示していた市民が活動を控え、民主派運動家が海外に逃れ始めた。今回の法律制定を「自由で開かれた香港の死」と受け止めているからにほかならない。

 法制導入を巡る習指導部の動きも唐突だった。導入を5月下旬に表明し、香港の立法府の頭越しに決定した。9月の香港立法会(議会)選挙前に民主派をけん制する思惑だろう。

 香港には外交・国防を除いた高度な自治や司法の独立を認める。それが一国二制度である。今回の法制の内容や立法過程はその大原則を破棄するものだ。

 そもそも一国二制度は中国側が発案し、英国から返還された1997年に50年間は維持すると国内外に約束した。84年の中英共同宣言や香港の憲法に当たる香港基本法にも盛り込まれている。その国際公約を一方的にほごにするのでは、中国の信頼は損なわれ、国際秩序を力で変更する悪い前例にもなる。

 これは香港にとどまる問題ではない。米国と並ぶ大国となりながら法の支配をないがしろにし、自由や人権といった普遍的価値に背を向ける中国の態度は国際秩序への挑戦である。中国国内の少数民族はもちろん、台湾をはじめ海外にもその強硬姿勢は向けられている。

 日本にとって中国は経済面で最大のパートナーであり、友好を築くべき隣国だ。しかし、自由や民主主義を脅かす問題では譲れない。他の主要国と協力して中国に対し強権支配からの転換を働き掛けるべきである。

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