「ラーメン店で働く」に挑戦 “聖域”に入ってみると…

西日本新聞 もっと九州面 小川 祥平

◆ラーメン のれんのヒストリー 替え玉(番外編) ラーメン満一 威風堂々(ハワイ)

 これまで多くのラーメン店を取材してきた。店の歴史のみならず、店主のプライバシーまで根掘り葉掘り聞いてきたが、いまだに厨房(ちゅうぼう)は「聖域」と感じている。今回、思い切って取材側ではなく店側の人間としてカウンターの向こう側に初潜入。番外編「ラーメン店で働く」に挑戦してみた。

 近年急増するラーメン店の海外進出に興味があったこともあり、国外の店を探した。つてを頼りに見つけた“修業”先はハワイ・ホノルルの「ラーメン満一 威風堂々」。1953年に福岡県久留米市で創業した老舗「満洲屋が一番」の系列ブランドだ。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前の2月にハワイ入りし、市内最大の商業施設「アラモアナセンター」に向かった。

 マネジャー赤司康弘さん(39)は2012年の開店に合わせて久留米から異動してきたという。夕刻のフードコートは、かなりの客でごった返す。飲食のバイト経験すらない私は、渡されたユニホームを手にちょっとビビる。

 翌日、最初に与えられた仕事はネギ切りだった。包丁を入れるが、ビニール手袋をしている上、ネギの束が太くて手こずる。すぐさま中国人スタッフがやってきて「幅が大きすぎ!」。出ばなをくじかれた。

 なんとかこなした後は皿洗い。こちらは家でやっていることもあり順調。昼にさしかかる頃、レジ係に昇格。しかし、簡単にはいかなかった。「辛味抜きで」「ベジタリアンなんだけど」「キクラゲって何?」。レジへの入力、お金のやりとりに加え、質問と要望が容赦ない。

 ちなみに赤司さんのほかは全員中国人。ハワイ店立ち上げ当初はラーメン店自体少なく豚骨は皆無だった。しかしそれ以降、ラーメン、とりわけ豚骨人気は高まっている。しょうゆ味などよりパンチがあり、分かりやすいウマさが人気の理由だそうだ。一緒に働くベラさん(20)も「豚骨党」の一人。「友達もTONKOTSUファンが多いです」。日本語が飛び交うことはなく「TONKOTSU」で通じる空間があった。

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 午後の落ち着いた時間にようやくラーメン作りに挑戦したわけだが、誤解を恐れずに言えば「意外に簡単だった」。油、調味料の量が決まっており、きっちりレードルですくうだけ。麺をゆでて1分待つ。その間にお玉一杯のスープを丼に注ぎ、麺を上げ、具材を盛り付ければ完成だ。この日はスープの仕込みこそしなかったが、赤司さんいわく「全員が作れるようマニュアル化してます」。

 簡単と言ったものの、夕方のピーク時には追いつかず、終盤はレジが定位置。日本のような「お客様は神様」対応ではなく、フレンドリーなのでやりやすい。

 印象的だったのはトッピングによっては20ドルを超えるラーメンが飛ぶように売れること。前回ハワイに行ったのは15年前。当時「物価が高い」とは思わなかったが、時代は変わった。デフレが続き「ワンコイン以上は高い」といわれる九州の現状をみるにつけ、多くの店が海外を目指す理由が分かる気がした。

 自分で作った一杯にありつけたのは閉店間際。味は当たり前だけれど豚骨だった。昔のように海外で「ラーメンもどき」を食べている感じはない。同時に日本で味わった「満洲屋が一番」とも違う。「こっちの好みに合わせて濃度を下げています」と赤司さん。老舗でありながらの柔軟さが成功の秘訣(ひけつ)かもしれない。

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 ハワイには「サイミン」という麺料理がある。見た目はあっさりタイプのラーメンなのだが、食べてみるとエビだしが香るスープでちょっと驚く。麺も沖縄そばのような、中華麺のような独特の味わいだ。

 サイミンは、日本、中国などからの移民の間で食べられてきたローカルフード。正確なルーツは不明だが、おもしろい逸話が残る。どの国の出身者も「私の古里の料理ではない」と言うらしいのだ。祖国の料理のエッセンスを取り入れながら、新しい食べ物として捉えられている証しだろう。

 翻って豚骨ラーメン。ハワイのみならず、アジア、欧米に浸透しつつある。コロナの社会にあっても、パンチのある味と今回経験した「意外に簡単な作り方」でさらに広がる可能性を秘めている。世界各地で「TONKOTSU」が普通に食べられる日はそう遠くない気がする。

 (小川祥平)

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