研究から実践へ 人工知能学会、初のリモート開催で裾野拡大 

西日本新聞 オピニオン面 塩田 芳久

 人工知能(AI)研究の最前線に立つ人たちが集う、第34回人工知能学会全国大会が今月9~12日に開かれた。本来なら熊本市の熊本城ホールを主会場に行う予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で初のオンライン開催に変更した。しかし大会史上最多となる900件超の論文発表があり、AI研究の裾野の広さを示すホットな話題が提供されて盛会のうちに終わった。運営に当たった森川幸治大会委員長、木村昭悟実行委員長に大会を振り返ってもらった。 

 ●熊本は幻

 ―残念ながら熊本での開催は実現できなかった。

 森川 くまモンのオリジナルTシャツをそろえ、スタッフ一同張り切って実現を目指していたのですが…。

 木村 ずっと熊本開催前提で進めていましたが、コロナの影響でオンラインに切り替えざるを得ませんでした。心配していましたが、多くの関係者の尽力で走りきることができました。

 ―リモート開催とはいえ、大会は注目された。

 森川 論文発表は915件に上りました。一昨年の鹿児島大会の647件、昨年の新潟大会の748件と年々伸びています。今回は最大で33の論文発表を並行してオンラインで行いました。

 木村 参加人数は約2300人。リモート開催で大きく落ち込むと予想していましたが、事前参加登録(2150人)ベースでは新潟大会に近い数字となりました。仮に熊本開催が実現していたら、3000人は軽く超えて熊本城ホールの広い会場がぎゅうぎゅう詰めになっていたかもしれません。

 ●深層学習

 ―今大会の主なトピックは?

 森川 熊本開催にちなんで、熊本大工学部の上瀧(こうたき)剛准教授による特別講演を実施しました。「AI技術の熊本城復興への応用」と題して、熊本地震で被災した熊本城の石垣の復旧をAIで支援するシステムなどを紹介してもらいました。この特別講演は、熊本市民の皆さんにも聞いていただけるように一般公開を予定していましたが、それもできず残念でした。

 基調講演として、札幌市立大の中島秀之学長から「AI技術を活用する社会のデザイン」について、社会に普及しつつあるAI技術の歴史と今後についてお話しいただきました。招待講演では、東京大の植田一博教授から「人間の知 機械の知」というタイトルで、認知科学とAIの関係性について紹介いただきました。

 木村 全体的に見ると、深層学習といわれる人間の脳をケースモデルにして、さまざまな学習を行う技術に関連したセッション(集会)が多かったです。またAI研究の長い歴史の中で培われてきた技術と、最近出てきた深層学習のような新しい技術をどう融合していくかが重要なテーマになっており、幾つもの発表がありました。新しいAIの技術を実際にどう導入し、活用してゆくのかを考える企画も立ち上がり、次のトレンドを感じさせました。

 ●若手支援

 ―次代を担う学生たちによる企画も行われた。

 森川 「各世代のAI研究者に問う―『善く生きる』の捉え方―」のタイトルで3人の世代の違う研究者を招き、それぞれの人生観や研究観を話してもらいました。どのようなビジョンの下で仕事に取り組んでいるのかを聞き、若手が自らのビジョンについて深く考える機会をつくることを目指しました。

 人工知能学会では、高校生向けに学会誌で漫画によるAIの技術などを紹介しています。またAI研究の幅はとても広いので、どんな技術があって、それがどんな関係にあるのか俯瞰(ふかん)できる「AIマップ」を学会のホームページで公開しています。AIと人とは何を通して関わっているのか、AIが人に及ぼす影響や社会への応用はどのようなものがあるかなどフロー図で示しました。これからAIを学ぼうと考える人たちを支援する取り組みを進めています。

 ―AIが身近に感じられる時代になってきた。

 森川 AIは大学の先生や企業の研究所の人たちだけのものでなく、一般的なビジネスに応用できるものとして認識されるようになってきました。IT企業の人たちが使うイメージは強いですが、医療、農業、製造業とコンピューターをあまり使わないと思われている分野でもAI技術は浸透しています。新聞の分野でもテキスト(文章)を自動で要約する技術が注目されています。

 ―改めて大会を振り返ると。

 木村 AI研究が次のステージに行ったとき、どういうことが起きるのか、どういうことをしなければならないのか、どんな問題を解決しなければならないかと考えることが今回のイシュー(課題・論点)だったと思います。世界的に見ると深層学習の発展は大きいところですが、「その次をどうするか」という話が大事だということが随所に見えてきました。深層学習を超える新しい原理もありますが、研究レベルでできていたことを実フィールドに下ろしたとき、どんな難しさがあるのか探求することも必要となるでしょう。研究の次世代の新しいフレームワーク(枠組み)が見られた大会でした。

(塩田芳久)

 ▼人工知能学会 第一線で活躍する人工知能の研究者・技術者を擁する学術団体。1986年に発足、2013年に一般社団法人に移行した。会員は約5300人。学会誌「人工知能」に人工知能技術の普及・啓発を図るさまざまな取り組みを掲載している。

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