「分散避難」できるか未知数 住民の防災意識高めるには

西日本新聞 佐賀版 梅本 邦明

変わる災害避難(上)

 「2階に逃げたが食事は取れず、いつ助けが来るかも分からない。あの夜は生きた心地がしなかった」。昨年8月の記録的大雨で、2階建ての自宅が水に漬かった佐賀県大町町の福田弘太さん(79)は、新しく張り替えた床を見つめた。

 あの日は未明から早朝にかけて猛烈な雨が降った。福田さんは冷蔵庫にあった飲料水のペットボトル数本を持ち、妻(85)、長男(49)と2階に上がるしかなかった。携帯電話の明かりを頼りに一夜を過ごし、翌朝にボートで救助された。

 自宅周辺は数日間冠水。水に漬かった冷蔵庫は横転し、トイレも故障した。もしあの時、ボートが来なかったら-。身をもって在宅避難の恐ろしさを知った。

 この1週間、県内では激しい雨が断続的に降った。「次は雨が強くなる前に早めに車で避難所に逃げたい」。福田さんは通帳などの荷物をまとめて万が一に備えるが、不安は拭えない。「道路冠水の可能性があり、どう逃げるか判断が難しい。さらに今年はコロナの恐ろしさもある」

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 新型コロナウイルスの影響で、自治体は避難所での「3密」回避を図り、在宅や知人宅、車中泊などの分散避難を呼びかける。被災者は状況に応じた判断を迫られるが、柔軟に行動に移せるかは未知数だ。

 「普段は何でもない場所が災害では一変する。判断を誤ると避難場所がかえって危険な場合がある」。佐賀大理工学部の大串浩一郎教授(河川工学)はこう警鐘を鳴らす。実際、昨年の大雨では車ごと水没して命を落とすケースがあった。

 大町町の三角治副町長は6月の区長会で防災講話を行い「どこに逃げるのかをもう一度確認してほしい」と強調。避難ルートにある危険箇所の把握も訴えた。

 だが町民に取材すると、意外な声を聞くことも少なくない。「もう水に慣れてしまった。何をしても仕方ない」「災害時は慌てるし、その時にならんと判断が難しい」。水害の常襲地帯ならではの意識だろうか。

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 防災意識を高めるため、区長会では中島地区の鵜池弘文区長(68)が避難の模擬訓練を提案した。「いくら防災マップを配られても、高齢者には分かりづらい。われわれ素人がどう逃げたらいいのか、シミュレーションをした方がいい」

 中島地区は新興住宅が多く「共助が大切ときれい事ばかり言われても無理」と鵜池区長。みんなが顔を合わせて避難ルートを歩くことで「防災意識が高まり、地域が一つにまとまるかも」と期待を寄せる。

 町民の心構えに少しずつ変化も見られる。昨年の大雨で自宅が床上浸水した大串武信さん(62)は、防災マップを常にリビングに置き、危険箇所を確認するようになった。

 さらに町内の高台にある親戚宅への避難も新たな選択肢に。「雨やコロナの状況を見て判断したい」と在宅、親戚宅、避難所のいずれかを選ぼうとしている。

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 新型コロナの影響で、佐賀県内でも災害避難のあり方が見直されている。被災者、自治体、ボランティアの視点から課題を追った。

(梅本邦明)

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