「一番弱い立場」収入は激減 建設業の一人親方、コロナで悲鳴

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

 従業員を雇わず個人で仕事を請け負う建設業の一人親方が、新型コロナウイルスの流行で苦境に立たされている。感染拡大を防ぐため工事が止まり、収入を絶たれた人も少なくない。企業側の受注や景気の状況といった都合で、仕事量が左右される「雇用の調整弁」になっている側面もあり、立場の弱さがあらためて浮かび上がっている。

 福岡市の一人親方の男性(52)は3月、掛け持ちしていた二つの工事が一時中止になった。中断している間は賃金がない。仕事は他になく、行き詰まった。

 再開の見通しは立たず、自分で両方の請負契約を打ち切った。別の現場で収入を得るため、4月中旬から営業回りを始め、工務店から仕事を一つもらったが、感染防止で複数の現場を掛け持ちすることは禁じられた。決まりを破れば、「今後は仕事をやらない」とも。「一つの工事だけじゃ、どんなに頑張っても売り上げは上がらんですよ」

 売り上げは通常、1カ月に70万~80万円台だった。だが、4月は40万円台、5月は30万円台に。経費などを引くと、手取りは10万円に満たないこともあった。

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 家計は一気に苦しくなった。住宅ローンや、過去に抱えた負債の返済もある。貯金はほぼ尽き、国が打ち出す貸付制度を利用することにした。

 しかし、日本政策金融公庫が実施する実質無利子、無担保の貸付制度は利用を拒まれた。コロナ禍で事業の運転資金を貸し付ける制度だが、通帳を出すと「預金がない」「生活費に回すための制度ではない」と言われたという。

 「預金がないのは、家のお金を事業資金に回したからなのに。どうして認めてもらえんのですかね」。他の貸付制度も負債を理由に難色を示されたという。

 男性はこの間、工務店から請け負った仕事の半分を、他の一人親方に回してきた。「自分も苦しいけど、小さな子どもがいる人もいる。なんとかしてやらんと」という思いからだった。

 建設業の一人親方は全国で約59万人とされる。その立場は、ゼネコンなどの元請け業者の下に、1次、2次、3次の下請け業者が縦に連なるピラミッド型の「重層下請け構造」で、工事を分業する中で“末端”にいるイメージだ。

 このため、仕事をもらえるかは、元請けや下請け業者の受注量に左右される。福岡県建設労働組合福岡東支部の山中健書記長は「一番弱い立場で、仕事の環境は厳しいんです」。

 コロナ禍では一人親方などのフリーランスについて、補償などの法的保護が課題になった。中でも一人親方は企業に雇われて働くのが難しい面がある。建設業は受注に波があり、閑散期に社員を抱えておくよりは、繁忙期に外注した方が効率的-という長年の慣行があるためという。

 職人の仕事をするには一人親方になるしかない。この選択肢の少なさも、今回の苦境の要因になった。

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 全国建設労働組合総連合(全建総連)によると、厳しさはアンケート結果にも表れている。組合員約62万5千人のうち、一人親方が約19万人に上る組織だ。

 組合員に3回実施したアンケートでは、「4、5月の収入や売り上げが前年同期比でどのくらい減少したか」の問いに、約4千件の回答の4割弱が「5割以上減った」と答えた。生活費や工事中断、現場の閉所といった不安も寄せられた。

 先行きも不透明という。全建総連の担当者は「感染拡大防止で、特に住宅メーカーは3月以降に営業活動を控え、夏以降の仕事がない例がある。地方の一人親方は住宅系の仕事が多く、どうなるか」と懸念する。

 仲間に仕事を割り振った福岡市の男性は、収入が半減した個人事業主に最大100万円を支給する国の「持続化給付金」を受給した。だが、仕事の量が回復しないと再び窮地に陥ることになる。

 「貸し付けを断られた仲間は他にもいる。コロナでどれだけ厳しくなったか、もっと聞いて、なんとかしてほしい。このままじゃ、職人をやめる人も出てくる」と訴えた。 (編集委員・河野賢治)

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【ワードBOX】一人親方

 労働基準法では労働者とみなされないものの、業務の状況から、それに準じるとして労災保険に特別加入できる。厚生労働省の集計(2018年度末)では、特別加入している一人親方は全国で60万8347人。建設業が59万4858人で、他は個人タクシー・個人貨物運送業者9344人、林業1732人、漁業1688人と続く。建設業の一人親方の職種は大工や左官業、とび職、電気工事業などがある。

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