自慢の逸品がずらり 美術館「常設展」のすすめ

西日本新聞 もっと九州面

 新型コロナウイルスの感染拡大で各地の美術館は臨時休館が続いた。緊急事態宣言の解除を受けて再開したものの、著名作品を国内外から集めるような「特別展」は混雑が予想されるのでほとんど行われていない。こんな時は「常設展」を見よう。そう思い立ち、手近な福岡市美術館(中央区大濠公園)へと足を向けた。

 特別展のチケットにはよく「常設展(収蔵品展)も鑑賞できます」などと記されている。特別展を見て時間があったら回ってみようか、でも、“タダ”だから大したことはなさそう、やめとこう…。そう考えたことのある人は、私を含め少なくないはず。

 だが、なめてはいけない。各美術館のコレクションの中からえりすぐりの作品を披露するのが常設展であるからだ。たとえば福岡市美術館は、江戸時代以前の古美術から近現代美術まで1万6千点を超える作品を収蔵する。常設展ではシャガールやダリ、ミロ、草間彌生といったスター作家の作品がいつでも鑑賞できる。テーマを設定した数カ月単位の企画展示をはじめ、展示作品の入れ替えはかなりの頻度で行われており、いつ訪れても新鮮に感じられる。

 今回、興味を引かれたのは19世紀末から20世紀のフランスで活躍した画家、ラファエル・コランの「海辺にて」。同館の購入作品第1号だ。柔らかな日差しの中、海辺で軽やかに舞う裸婦が描かれている。

 この作品にはちょっとした「裏話」があることを、作品に添えられた「おもしろキャプション」で知った。学芸員が解説したキャプションによると、コランはこの作品を描く際、水色の布を庭に敷いて海に見立て、布の前にモデルを立たせて写生したという。この裏話を明かしたのが、コランに師事した“近代洋画の父”黒田清輝(鹿児島出身)だというのが興味深い。

 旬の展示作品は、20世紀を代表する英国の彫刻家、ヘンリー・ムーアの「ふたつのかたちによる横たわる人体 No.2」だ。横たわる人体の上半身と下半身を表現した二つの塊。荒々しい質感と、穴や空洞を含む起伏に富んだ造形は、自然が生んだ岸壁や洞窟を思わせる。JR博多駅前の西日本シティ銀行本店本館に設置されていたが、建て替え工事に伴い、絵画など27点の美術品と併せ2025年秋ごろまで同館で保管・展示される。

 「自然との調和」を生涯のテーマとしたムーアが後進に与えた影響は大きく、近現代美術室Cで展示中のアニッシュ・カプーアの「虚(うつ)ろなる母」や、インカ・ショニバレCBEの「桜を放つ女性」にも共通点を探ることができる。

    ◇    ◇

 美術館のコレクションは地域の文化財を守り、後世に伝えるという役割も担っている。1階コレクション展示室の「東光院仏教美術室」では、旧福岡藩主黒田家の菩提(ぼだい)寺の一つだった薬王密寺東光院(同市博多区吉塚)から寄贈された仏像群を一部入れ替えながら通年展示している。

 寺院の山門をイメージした入り口の両側には金剛力士立像が鎮座。展示室をお堂内部に見立て暗めの照明で厳かさを演出している。

 中央には国重要文化財「薬師如来坐像(ざぞう)」、両脇に「日光菩薩(ぼさつ)」と「月光菩薩」。頭上に十二支の動物を乗せた「十二神将(しんしょう)立像」がぐるりと囲む。奈良時代に創建された奈良市の新薬師寺などの配置を参考にしており、美術品として鑑賞するばかりでなく、人々の信仰を集めたいにしえの姿をしのぶこともできる。

 左手に持った壺の薬によってあらゆる病を治すとされる薬師如来を見ながら岩永悦子館長が言った。「今だと、新型コロナのワクチンや治療薬がほしいですね」。アートをリアルに自由に楽しめる当たり前の日々が待ち望まれる。 (文・田中仁美、写真・古瀬哲裕)

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