明智光秀の嫡男・光慶と女婿・秀満から見た、謎多き父の知られざる物語

 大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」の主人公として描かれ、ますます注目されている明智光秀。牢人(ろうにん)という苦境から織田信長の家臣として出世を果たし、重用されたにもかかわらず本能寺の変を起こしたその生涯には、謎がつきまとう。光秀がどういう想いを胸に生き、なぜ謀反を起こしたのかを光秀の嫡男・十五郎(光慶)と女婿・佐馬助(秀満)の視点から描いたのが本書だ。

 物語は、十五郎元服の年から始まる。光秀が丹波を平定した後、十五郎は元服披露のため信長に呼ばれて登城する。しかし、なぜか何度通っても目通りはかなわない。おまけに、父・光秀はいつまで経っても十五郎に初陣を任せてくれず、信長の側室であり信長と明智家の間を永らく取り持っていた義妹・妻木殿が死の淵にあっても戦を優先しようとする。

 「主君に嫌われている」「父の心中が分からない」と困惑し、懊悩(おうのう)する十五郎。一方の佐馬助は、光秀に忠誠を誓いながら、信長からある命を受ける。歴史の奔流はうねるように明智家を呑(の)み込み、十五郎のあずかり知らぬところで本能寺の変の火種が粛々とまかれていく。

 本能寺の変の起きた1582年といえば、言うまでもなく江戸幕府の開かれる直前、「天下泰平」の世となる前だ。父に比べこれまでなかなか日の当たってこなかった十五郎を中心に、戦国時代の理と全く新しい世の理の狭間で生きた光秀・十五郎父子の物語を確かな筆致で描いているところが興味深い。

 本心を明かさない父。父の目的を、自らの明智家当主としての器を図りかねる息子。これがもっと戦乱のまっただ中であれば、二人の関係はもっと違ったものだったかもしれない。あるいは刀を必要としない世であれば、はたまた信長に仕えていなければ…。「たられば」を語るのは野暮だ。だからこそ、物語が果てしない重みをもつ。

 時に、明智家の家紋である「桔梗」はもともと、神に捧げられ吉凶を占う花であったという。「桔梗」の名は「吉凶」が形を変えたものなのだそうだ。運命を予言する花。本能寺の変の後の光秀の末路は、ご存知の通り。明智家のたどった運命は、果たして吉か、凶か。

 

出版社:潮出版社
書名:桔梗の旗
著者名:谷津矢車
定価(税込):1,650円
税別価格:1,500円
リンク先:https://www.usio.co.jp/books/paperback/20231

西日本新聞 読書案内編集部

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