人を理解する難しさ――私やあなたについてのノンフィクション・ミステリー

西日本新聞

 いくつもの世界的ベストセラーを持つ、アメリカの人気ノンフィクション作家による最新刊。タイトルの直訳は「見知らぬ他人と話すこと」。といっても、話し方についての本ではない。なぜ人間は見知らぬ他人と話をしても相手を理解することができないのか、つまりその難しさについて書かれた一冊だ。

 もしかすると、「他人と話してもその人を理解できない」と聞いて首をひねる人もいるかもしれない。何事も話せば分かる、直接会って話をする以上に他人を理解する術(すべ)はない、そう考えている人もいるだろう。しかし著者によれば、それらは単なる思い込みに過ぎないのだ。

 とりわけ初対面の場合、実際に会わないでいるほうが相手について理解できることがある。その実例として、本書には実際の裁判を通して行った、ある研究結果が紹介されている。詳しい説明は省くが、被告人を保釈すべきか否かの判断において、実際に被告人と対面した裁判官よりも、被告人の年齢や前科などの情報しか知らないAIのほうが、圧倒的に優れた判断を下したのだ。

 なぜ人は他人を理解するのが苦手なのか。にもかかわらず、なぜ人は他人を簡単に理解できると思い込んでいるのか。その理由を、著者は実際の事件や社会科学の理論を挙げつつ明らかにしてゆく。読み進めていくうちに、人間の、そして自分自身の愚かさや慢心に気付かされ、ウンザリしてくる読者もいるかもしれない。そしてその愚かさと慢心が、時に重大な社会的事件の犯人を野放しにし、時に冤罪で一人の人間の人生をメチャクチャにし、そして時に世界を戦争へと向かわせてきた事実に唖然(あぜん)とするだろう。

 他人を理解することの難しさは、人種的偏見にもつながる。著者が本書を執筆したきっかけは、本書冒頭でも取り上げられている、ある若い黒人女性が理不尽な理由で白人警官に逮捕され、独房で自殺した事件であるという。なぜ警官は逮捕したのか。なぜ女性は死を選んだのか。本書は、全体がその謎をめぐるミステリーのような構成になっている。

 日本でも、SNS上のコミュニケーションを発端とする痛ましいニュースを目にする機会が増えた。また、事件に発展せずとも、人は日々、他人を誤解し、他人から誤解されているとも言えるだろう。そういう意味で、本書は私やあなたについて書かれたノンフィクション・ミステリー作品と呼べるかもしれない。

 

出版社:光文社
書名:トーキング・トゥ・ストレンジャーズ
著者名:マルコム・グラッドウェル:著 濱野大道:訳 
定価(税込):1,980円
税別価格:1,800円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334962425

西日本新聞 読書案内編集部

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