障害者の演劇、裏方を育てる 「表現の場」を下支え3年

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 障害のある人の演劇など文化芸術活動が広がるなか、九州大大学院芸術工学研究院の付属機関「ソーシャルアートラボ」=福岡市=が、こうした舞台づくりの裏方となる「担い手」を育成する講座を開いている。実際に多様な人たちによる公演を続ける地元のNPO法人などと協働し、制作の過程を体感しながら、障壁のない活動環境のあり方やノウハウを学んでもらう試みで、今年で3年目。障害者に社会参画を促す「表現の場」を下支えし、その裾野を広げていく人材を育てるのが狙いだ。

 「障害のある人、ない人がともに一つの舞台を作り上げるため、お互いを知り、助け合い、自分を見つめ直す中で、偏見がなくなっていく」と担当助教の長津結一郎さん(34)。「芸術活動の場が、そんな気づきを生む貴重な機会になることを知ってほしいです」

 「『演劇と社会包摂』制作実践講座」と題し、主に社会人を対象に2018年度からスタート。毎年、受講者を公募して主にワークショップなどを行い、これまで福祉施設や劇場、学校関係者など九州各地から計約40人が参加している。

稽古でケアも体験

 講座に協力しているのは、障害のある人や高齢者が出演する演劇を制作し、全国各地で公演している認定NPO法人「ニコちゃんの会」(同市)。いずれも同会作品の俳優で、脳性まひがあるパフォーマーの森裕生さん、歩行や発話に障害がある里村歩さん、筋力が低下していく難病の廣田渓さんが、東京などで活動しているパフォーマンスグループ「門限ズ」の作曲家や振付家らとともに講師を務める。

 18年度は、実際に3人が出演した舞台「走れ!メロス。」の制作過程に付き添う形式で実施。受講者は、一緒に「(障害などの影響で)緊張する体の動きも含め、日常のふとしたしぐさがダンスの振りなど多様な表現につながる」ことをワークショップで体験したほか、実際に舞台稽古の現場で俳優たちの食事や着替え、移動などを手助けした。

 長津さんは「障害のある人と一緒に新しい表現を模索したり、身体の介助をしたりするのに最も大事なのは、一人一人が向き合い、コミュニケーションを工夫し、人間関係をつくっていくこと。それに気づいてほしかった」と狙いを語る。

体に触れ距離縮め

 19年度のワークショップは、より障害のある俳優たち自身を「知る」内容に。

 森さんは「舞台に出る人間の最低のマナーとして、毎日ウオーキングや筋トレ、食事管理をしている」と打ち明け、受講者の前で腕立て伏せを披露。里村さんは「体が動かなくなる前に、一日一日悔いなく過ごしていこうと考えた」、廣田さんも「演劇と出合って表現せざるを得なくなり、徐々に自分を取り戻したように感じている」と表現活動に携わる思いを語った。

 3人にそれぞれ自身の体に触れるよう促され、また一緒に街中を散歩し、パフォーマンスも創作するなど「距離」を縮めた受講者たち。「心に刺さる話を聞き、障害があってもなくても表現者には変わりないと再確認できた」(文化施設職員)、「体に触った時、最初はどう接すればいいかと構えていた気持ちが融解したような気がした」(学生)、「誰にでも大なり小なり障壁は存在する。日常が表現につながることが面白かった」(福祉施設職員)-。講座後のアンケートにはそんな感想が並んだ。

 「ともに汗を流すうちに、障害がある、ない、またケアをする方、される方という『境界』がなくなっていくことを実感できたのではないか」(長津さん)

日常も共有し合い

 本年度はコロナ禍の影響で6月にオンラインでのワークショップを実施。森さんら3人も自宅からパソコン端末などで参加し、その日常や暮らしを受講者たちと共有した。今後は「遠くにいても、オンラインだからこそ障壁を超えて画面上でつながり、つくり上げることができる新たな表現」も模索していくという。

 「芸術活動は、少数派の人と多数派の人をつなげる格好の『回路』になり得る」と長津さん。その先に、「ともに生きる社会」が見えてくると信じている。

 今年2回目のオンラインによるワークショップとディスカッションを18日に予定。ワークショップ(午後1時~5時半)は受講料千円(先着15人)。ディスカッション(午後8時~9時半)は無料。事前申し込みはホームページ(「九州大学ソーシャルアートラボ」で検索)から。 (編集委員・三宅大介)

 【ワードBOX】障害のある人のアート活動

 「文化芸術活動を通じた障害者の個性と能力の発揮」や「社会参加の促進」を目的に2018年、障害者文化芸術活動推進法が議員立法で制定され、施行。自治体に推進計画の策定を求めるなど文化庁や厚生労働省が近年、後押ししている。九州大ソーシャルアートラボの「『演劇と社会包摂』制作実践講座」は、文化庁の助成(18年度から3カ年)を受けて開講中。

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